母よ、あなたは誰よりも美しく、逞しかった! 社会派コメディ『ママはレスリング・クイーン』
#映画 #パンドラ映画館
“美しく、そして強い女”に男は憧れる。そして、その美しくて強い女性という理想像の源流を辿っていくと、自分の記憶の中にある若き日の母親の姿に突き当たる。あらゆるトラブルから身をもって守ってくれた母親は、幼き日の少年にとってオールマイティーなスーパーヒロインそのものだった。記憶の中の母親はいつまでも美しく、絶対的な保護者として存在するが、実際に自分が大人になって社会の荒波に揉まれてみれば、当時の母親はいろんな葛藤を抱えながら子育てしていたことに気づく。故郷に残した母親への思慕、現実の壁を乗り越えられずにいる自分への苛立ち、少年期に夢中になっていたプロレスブームの熱気……。胸の中で渦巻く諸々の想いがリング上で激突して、スパークする。フランス発の社会派コメディ『ママはレスリング・クイーン』はそんな映画だ。
プロレスを題材にした作品といえば、中島らもの短編小説『お父さんのバックドロップ』(集英社)や、田口トモロヲが1年がかりで肉体改造に取り組んだ『MASK DE 41』(03)、ミッキー・ロークが大復活を遂げた『レスラー』(10)など男の哀愁が漂う、泣けるものが多い。その点、『ママはレスリング・クイーン』は文字通り女子プロレスに挑むことになった主婦たちの活躍が、上映時間97分の中で実に小気味よく展開していく。
舞台は花の都パリからずいぶん離れた、フランス北部のうらぶれた田舎町。イギリス映画『フル・モンティ』(97)と同じように、町の人たちは働きたくても働く場所がない。シングルマザーであるローズ(マルリー・ベリ)は若気の至りで刑務所で5年間を過ごし、マイノリティー雇用の一環として採用されたスーパーマーケットのレジ係として第2の人生を歩み始める。心を入れ替えてマジメに働くローズだが、離れて暮らしていた息子はすっかり育ての親に懐いてしまい、ローズと顔を合わせようともしない。息子が米国のプロレス団体「WWE」に夢中なことを知ったローズは一念発起。自分がプロレスラーになることで、息子を振り向かせようと考える。でも米国と違ってフランスでは女子プロレスはおろか、男子プロレスでさえ興行がほとんどない。ならば、自分たちで興行しちゃえ! ローズは職場の同僚である上品そうな主婦のコレット(ナタリー・バイ)、お色気過剰のジェシカ(オドレイ・フルーロ)、食肉担当のヴィヴィアン(コリンヌ・マシエロ)を誘って女子プロレスチームを結成。かつて“ライオンハート”のリングネームで活躍したものの今では引退生活を送っていたリシャール(アンドレ・デュソリエ)をコーチとして引っ張り出し、プロレス修業を開始する。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事