人工知能は人間を超えるのか――ジョニー・デップ主演『トランセンデンス』
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人工知能(AI)という言葉に聞き覚えがなくても、スマートフォンの音声アシスタントを日常的に使っていたり、自走式の掃除ロボットなら知っているという人は多いはず。そんなAIをテーマにした2本の映画が、くしくも日本で同時期に封切られる(いずれも6月28日公開)。近い将来に起こり得る危機的状況や悲喜劇を通じて、「人間ってなんだろう?」とあらためて問いかけてくる作品たちだ。
『トランセンデンス』は、ジョニー・デップ主演によるSFサスペンスアクション。人工知能を研究する天才科学者ウィル(デップ)は、反テクノロジーのテロリストに銃撃されるが、死ぬ間際にその頭脳は、共同研究者で妻のエヴリン(レベッカ・ホール)によってスーパーコンピュータにインストールされる。コンピュータの中でよみがえったウィルの意識は、ネットワークを通じて膨大な知識と情報を吸収し、際限なく進化。金融市場にアクセスして得た資金でハイテク研究所を建設し、再生医療を発展させて不死身の兵士を作り出すまでになる。
製作総指揮は『ダークナイト』シリーズや『インセプション』のクリストファー・ノーラン。主要なノーラン作品で撮影監督を務めてきたウォーリー・フィスターが、本作で監督デビューを果たした。主人公が早々に死んでしまうので、ジョニデのファンならずとも不安になるが、驚くべき方法で復活を果たすのでご心配なく。AIだけでなく、金融取引を行うプログラム、再生医療、ナノロボットなど現実に応用が進んでいるさまざまな先端技術を巧みにストーリーに盛り込んでおり、人間が制御できなくなるハイテクの恐怖を分かりやすいビジュアルで警告する側面も。後半で派手なアクションを見せるために、やや荒唐無稽な筋立てになる点は評価が分かれそうだが、知的好奇心を刺激されつつスリリングな活劇も楽しめる快作だ。
『her/世界でひとつの彼女』は、『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』の奇才スパイク・ジョーンズ監督が手がけた近未来ラブストーリー。手紙の代筆を職業とするセオドア(ホアキン・フェニックス)は、幼馴染みだった妻キャサリン(ルーニー・マーラ)と別れ、傷心の日々を送っていた。そんな時、最新のAIが搭載されたOSに興味を持ち、自宅PCとモバイル端末にインストール。利用者に最適化されたOS「サマンサ」の魅力的な声にひかれ、セオドアは“彼女”と過ごす時間に幸せを感じ始める。
ジョーンズ監督が長編で初めて単独で脚本も手がけ、今年のアカデミー賞で脚本賞を受賞。ナイーブな「こじらせ男子」の恋物語は、独創的な映画を撮り続ける監督の世界観にぴったりだ。明るくセクシーなサマンサの声は、スカーレット・ヨハンソンが担当。リリカルな映像とドビュッシー風ピアノ曲のBGMで、岩井俊二監督作品に近いテイストも非人間の存在に恋してしまうシチュエーションをユーモラスに描きつつ、普遍的な恋愛の真理、存在と関係性という哲学的命題にも挑んだ意欲作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『トランセンデンス』作品情報
<http://eiga.com/movie/79708/>
『her/世界でひとつの彼女』作品情報
<http://eiga.com/movie/79523/>
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