中島哲也監督の“破壊衝動”が全編にほとばしる! 崩壊家族が織り成すポストホームドラマ『渇き。』
#映画 #邦画 #パンドラ映画館
警察をクビになり、家からも追い出され、サイアクの状態だった藤島だが、この事件を独力で解決することで、父親として夫としての威厳を取り戻そうとする。うまくすれば、復縁して家族としてやり直せるかもしれない。元刑事の勘と長年培った捜査のノウハウで娘の消息をたどり始める藤島。同じ高校に通う森下(橋本愛)、中学時代の同級生・遠藤(二階堂ふみ)、神経科医の辻村(國村隼)らと接触するが、どうも加奈子は単なる被害者ではないらしい。加奈子の名前を出すと、みんな祟り神を恐れるように口を閉ざしてしまう。一体、自分の娘は何者だったのか。藤島は調べれば調べるほど娘の正体が分からなくなる。やがて藤島は、中学生の頃に加奈子が親しくしていた緒方という男子生徒が自殺していたことを知る。だが、どこをどう探しても加奈子の姿を見つけることができない。それは仕事にのめり込んで家庭を省みなかった藤島への娘からの挑戦状でもあるようだった。
突然姿を消した娘の行方を父親が這いつくばって探し続けるというストーリーは、ポール・シュレイダー監督の『ハードコアの夜』(79)を彷彿させる。ポール・シュレイダーは『タクシードライバー』(76)や『モスキート・コースト』(86)など強迫観念にとらわれた男が常規を逸した破滅的行動に突っ走る物語をやたらと描きまくった人物だ。『ハードコアの夜』の保守的で超厳格な父親(ジョージ・C・スコット)は仕事を放り投げ、失踪した娘を執念の末に探し当てる。ところが、娘は何者かに拉致誘拐されたのではなく、息苦しい実家から自分の意志で逃げ出し、ポルノ映画界の住人として暮らしていた……。『ハードコアの夜』はそんな苦いオチが待っていた。だが、藤島家の親子には、『ハードコアの夜』以上にハードコアな闇が待ち受けている。
よくR18指定にならなかったなと思えるほど、『渇き。』はバイオレンスシーンとアブノーマルセックスのオンパレードだ。公安や裏社会からの様々な妨害に遭い、ボロボロになりながらも娘の痕跡を追い求める藤島。娘の置き土産である覚醒剤を自分の体に注射することで、娘の意識とシンクロしようとする。もはや藤島が追い掛けているものは、幻影としての温かい家庭と愛すべき娘でしかない。幻想だとわかっていながらも、藤島はそれを追うことしかできない。クソ野郎! ぶっ殺す! 罵詈雑言を吐きながら、藤島は娘を探し続ける。
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