「人を殺すのは蚊を殺すのと同じ」土浦連続殺人事件・金川真大の仮面の下に潜む狂気
#本 #凶悪犯罪の真相
小林ら取材班は、事件を追う過程で「金川の人間性を呼び起こす」ことを決意する。「浅はかだったと思わないのか」「被害者に対してどう思うのか」と金川を問い詰めて、反省の言葉を引き出そうと試み、学生時代の友人を連れて行った面会では、金川が涙目になったことから、その人間性が取り戻せるのではないかと期待した。だが、小林らがどんなに理解しようと近づいたところで、金川の心が揺れ動くことはなかった。教誨師も付けず、再審請求をすることもない。それどころか、金川は「なんで殺さない?」「6カ月以内に(刑を)執行しないのは法律違反だ」と、法務大臣に手紙を送り続けていたのだった。金川を「キンちゃん」という愛称で呼び、距離を縮めようとした拘置所の職員は、「生きたい、とは思っていなかったんです」と、拘置所内での姿を振り返る。そして、13年2月、東京拘置所の地下で金川真大は死刑に処された。
テレビのワイドショー番組のように「彼はモンスターである」として断罪することが安易なら、その逆に「彼はモンスターではない」「自分たちも彼と同じようになるかもしれない」と理解したそぶりを見せることもまた、安易なことなのではないか。本書を通じ、そのような感想を抱いた。犯罪者を理解し、犯罪者を人間として扱うこと、そこには何よりもまず人間としての心を持っているということが前提になるはずだ。しかし、「人を殺すことは蚊を殺すのと同じ」と悪びれなく発言する金川と、そんな前提を共有することはできるのだろうか。
30回を超える面会を行ったにもかかわらず、「金川の人間性を呼び起こす」という小林ら取材班の取り組みは徒労に終わった。もちろん、だからそこに「意味がない」と結論付けようとは思わない。ただ、凶悪犯罪者に向き合うというのは、想像を絶する困難が伴うものなのだ。
いったい、どうすれば、金川という人間を変えることができたのだろうか? どうすれば、犯した罪を反省させることができただろうか? その問いに答えないまま、金川真大はこの世を去ってしまったのだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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