一生働かずに生きていける南の島があった!?『アホウドリの糞でできた国 ナウル共和国物語』
#本
“ナウル共和国”という国を知っているだろうか?
この国は、サンゴ礁に集まってきたアホウドリの糞が、長い月日をかけて積もりに積もってできた、全周約19kmの小さな島国。オーストラリアの北、赤道より少し南に位置する。ナウル共和国として独立した1968年から1980年代にかけて「世界で最も豊かな国」と呼ばれ、1981年には国民1人当たりのGNPが、アメリカの1万3,500ドル、日本9,900ドルを抜き、なんと2万ドル(!)と推定された。国民は、税金なし、教育費や病院代、電気代もタダ。誰も働く必要がなく、結婚すると政府から2LDKの家がプレゼントされる――。そんな夢のような国、だった。
その理由は、アホウドリの糞とサンゴ礁が生み出した“リン鉱石”という資源。だが、1990年代に入ると、採掘のしすぎによりリン鉱石はほぼ枯渇してしまい、国家財政はみるみるうちに悪化。2003年2月には、何があったのか、オーストラリア政府が、ナウル共和国との連絡がつかなくなったと発表し、国家がまるごと行方不明という前代未聞の事態に……。
『アホウドリの糞でできた国 ナウル共和国物語』(アスペクト文庫)は、2004年に発売された同タイトルを大幅に加筆編集したもので、ナウル共和国とはどういう国なのかという紹介から始まり、その歴史、「世界で最も豊かな国」と呼ばれていた頃の話、国民がまったく働かなくなってしまったこと、資源がまもなく枯渇することが判明し、政府が資金繰りのために実行した驚くべき対策などがまとめられている。さらに単行本発売から9年、その後、ナウルがどうなったのかについても迫っている。
この本を読んでいるうちに、ナウル共和国政府のあまりにも自由な発想、行動に、一体どんな国なのかとますます興味が湧き、外務省のナウル共和国の紹介ページを調べてみた。
すると、「政府」という項目には「大統領が、公務員大臣、外務・貿易大臣、気候変動大臣、警察・緊急業務大臣、内閣議長を兼務」と書かれ、経済概況については「国家の主要外貨獲得源である燐鉱石がほぼ枯渇し、現在その収入だけでは操業費用すらもまかなえない状況にあるほか、他にナウル経済を支えるめぼしい産業もなく、経済状況はさらに厳しい状態である。国営銀行も機能しておらず、正確な経済活動の動きは把握できない」(一部省略)とあり、“えぇっ、いろいろ大丈夫!?”と、思わずツッコミたくなってしまった。
こんなに不安材料が多いのに、どこかユーモラスで深刻さが感じられないのは、南の島だから? とはいえ、資源に依存し、枯渇間際になってどうしようかと悩むナウル共和国の現状は、そう遠くない将来、石油に頼る中東諸国でも十分起こり得ること。また、富を得るために自然を破壊し続け、取り返しのつかない事態に陥る可能性は、日本だってあり得る。政治が暴走したらどうなるのか? 働くとはなんなのか? 政府のジタバタ具合にちょっと笑わせられながらも、一方で真剣にそんなことを考えさせられる。
なお、本書の最後には、実際にナウル共和国を訪問したことがある日本人5名による対談があり、どうしたら入国できるのか、現地の観光や様子についてなど、写真付きで紹介されているので、行ってみたい! という人はぜひ参考に。
(文=上浦未来)
●ふるた・やすし(文)
1969年愛知県生まれ。ライター。電子雑誌トルタル編集長。名古屋大学工学部電気学科中退。著書に『瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか』(河出書房新社)、『「アイデア」が生まれる人脈。』(青山出版社)、『新企画は宇宙旅行!』(TAC出版社)ほか。12年4月電子雑誌トルタルを創刊。
●よりふじ・ぶんぺい(イラスト)
1973年長野県生まれ。アートディレクター。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科中退。近年は広告アートディレクションとブックデザインを中心に活動。著書に『死にカタログ』(大和書房)、『元素生活』(化学同人)、『ラクガキ・マスター』『絵と言葉の一研究』(美術出版社)ほか。
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