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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 死刑囚たちの実像

「この話は、わしが死んでから世に出してください」教誨師が語った、死刑囚たちの実像

 教誨師たちは、刑場まで一緒に足を運び、その最後の瞬間まで死刑囚に寄り添っている。

「最近はカーテンから向こうの部屋には、私らは入れないですけどね、当時は、彼らに一緒についていって、目の前でやるんです。『キミュオームリョウージュウニョウライーー!』と言ったらガターンって、目の前から落ちていくんですから、目の前ですよ! 自分の目の前をロープが、ビーンッと伸びて、落ちていった体がグッ、グッ、グッとなるのをね、こうやって上から見るんです」

 葬式や法事など、日常的に死者に接している僧侶だが、人が死ぬ瞬間に立ち会うことはほとんどない。それも、「殺される」瞬間に立ち会うことなど皆無だろう。その現場では、さまざまな感情が渦巻くことになる。母親に捨てられたことを深いトラウマとしていた死刑囚・横田和男(仮名)は、渡邉にすがりついた。

「刑場の教誨室で最後のタバコを吸わせ、お別れの儀式を済ませ、いよいよ執行の部屋へと移動しようとした時だった。横田が動かなくなった。『さあ』と刑務官に促されても、両足から根が生えたように踏ん張っている。
 それまでつつがなく進んでいた場の流れが急に途切れ、居合わせた全員がぎょっとした。たくさんの視線が突き刺さった男の顔に、大粒の涙がポロポロポロポロこぼれる。横田は渡邉にすがりつくようにして叫んだ。
『先生! お袋はやっぱり来てくれませんでした! もう私には時間がありません。もう間に合いません! あの時、お袋に捨てられさえしなければ、私はこんなことにならなかった! お袋は私を捨てた、捨てたんです!』
 そういって、まるで子どものように顔を隠そうともせずワンワン声をあげて泣き始めた」

 そして、横田は「お母さん! お母さん!」と叫びながら死んでいった。渡邉は、母親への恨みを拭えなかった自分の力不足を悔やみ、読経を続けることすらできなくなってしまう。その頬には涙が伝っていた。

 数々の死刑執行の瞬間に立ち合いながら、渡邉の心には、深い葛藤があった。

「それは、辛いですよね。辛いです。うん……。『殺したくないな』と思いますよ。『死なせたくないな』という気持ちはありますよ。『こんな人間をなぜ殺さなければいけないのだろう』という疑問はありますよ。疑問はあるけども、やっぱり日本の法律の下でわれわれは仕事をしていることですからね、それ以上のことは言えないね……ええ」

 死刑に対して、法務省は秘密主義を徹底している。だからこそ、そこに直接関わる人々の姿はなかなか見えてこない。しかし、一言で「死刑」といっても、それは人間の手によって運営され、人間の手によって実行されている行為なのだ。「社会問題」としてくくることによって、抽象的になってしまう死刑についての議論。その実態を、本書はひとりの教誨師を通じて浮かび上がらせている。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2014/06/12 21:00
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