中国の暗部をえぐる実録犯罪集『罪の手ざわり』“格差社会”が招いた哀しき犯罪者たちの慟哭!
#映画 #中国 #パンドラ映画館
2010年にGDP(国内総生産)ランキングで日本を抜いて、世界第2位に躍り出た中国。2020年代には米国も追い抜き、世界最大の経済大国になることが予測されている。計画経済から市場経済に移行し、わずかな期間で目覚ましい経済成長を遂げた中国だが、その反面では社会格差も著しく生じている。安価で豊富な労働力が経済成長を支えてきたわけだが、一方的に搾取され続けている労働者たちの怒りと不満は爆発する寸前だ。“中国映画第六世代”の旗手ジャ・ジャンクー監督の新作『罪の手ざわり』は、現代中国で起きた4つの実在の事件を題材にしたもの。社会格差が陰惨な事件を誘発している現状を生々しく暴き出している。昨年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、世界40か国以上で配給が決まっているものの、中国本土では公開の目処が立っていない問題作だ。
最初に描かれるのは、2001年に中国北部・山西省の小さな村で起きた大量殺戮事件。村のトップである共産党支部書記をはじめ、71歳から10歳までの14人がひとりの男によって射殺された。事件の発端は、村の共有財産だった炭坑の採掘権がいつの間にか実業家の手に渡っていたことだった。炭坑で働く中年男のダーハイ(チァン・ウー)は、「社長のジャオが炭坑の利益をひとり占めしているのはおかしい」と村長らに訴えるが相手にされない。ダーハイとジャオは学生時代は同級生だったが、市場開放を機にジャオは成功を収め、今や勝ち組の代表。負け犬となったダーハイがいくら正論を吐いても誰も見向きもしない。北京にある中央規律委員会に告訴状を送ろうとするも、ダーハイはその住所を知らなかった。郵便局員からは「住所が書いてない郵便物は受け取れない」と告訴状を突き返されてしまう。きっと村長も郵便局員もみんなジャオから口止め料をもらっているに違いない。広場で上演されていた京劇『水滸伝』を観ていたダーハイは「自分こそは現代の義賊だ」と思い込み、猟銃を持って村役場、そしてジャオ社長のもとへと向かう。家族も希望もないダーハイは引き金を引くことを躊躇しなかった。死体の山を築き、返り血を浴びたダーハイは実に満足げな表情を浮かべる。
第二幕の主人公となるのは、出稼ぎ労働者から連続強盗殺人鬼へと変貌した平凡な男チョウ・コーホワ。中国西部・重慶出身のチョウ(ワン・バオチャン)は最初こそは真面目に働いて、田舎で暮らす家族にせっせと仕送りしていたが、働いても働いても生活は楽にならない。いつしかチョウは『山月記』の人虎のように平気で人を殺して、財布をいただく冷血鬼となっていた。強盗殺人を生業とするチョウだが、旧正月に故郷へ帰るときだけは家族想いの優しい男に戻る。妻は仕送り額が急に増えたことから、夫が危ない仕事に手を出していることに感づいている。だが、今さら元の生活に戻ることはできない。束の間の休みを終え、再び強盗業を再開するチョウ。銀行から出てきた裕福そうな夫婦に目をつけ、白昼の市街地で平然と銃弾を放ち、現金を奪い去る。この後、チョウはA級指名手配され、2012年8月に警察隊に射殺されることになる。
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