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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.272

中国の暗部をえぐる実録犯罪集『罪の手ざわり』“格差社会”が招いた哀しき犯罪者たちの慟哭!

tsuminotezawari02.jpgセクハラ役人殺傷事件の加害者は、中国のネット上で女侠客として人気を集めている。演じるのはジャ・ジャンクー作品の常連女優チャオ・タオ。

 第三幕と第四幕は、中国の性風俗ビジネスが舞台だ。華中・湖北省の「夜帰人」という風俗サウナで受付係として働くシャオユー(チャオ・タオ)は、台湾系の縫製工場で工場長を務める男と長年にわたって愛人関係にある。男はいつまで待っても離婚する気配がない。女ひとりの稼ぎで食べていける豊かな時代になったものの、幸福な家庭とは程遠い侘しい生活しか手に入らなかった。そんな折、いかにも成金風の男性客たちがサウナを訪れ、シャオユーに「金は払うから、お前が特別マッサージをしろ」と執拗に迫る。「私は受付係で、娼婦ではない」と断るシャオユーの顔を男性客は札束で叩く。忍耐の緒が切れたシャオユーは男性客を果物ナイフで刺殺し、サウナを赤い血で染める。2009年に起きたセクハラ公務員殺傷事件がモデルで、実際はマッサージ室に置かれていた魚の目を取るための刃物(修脚刀)が凶器として使われた。

 もうひとつの舞台は、中国南部・広東省にある高級クラブ「中華娯楽城」。ここでは若くて容姿端麗な女の子たちがコスプレ姿で男性客を楽しませてくれる。指名料とチップを弾めば、お気に入りの女の子が個室でスペシャルサービスもしてくれる。縫製工場で働いていた青年シャオホイ(ルオ・ランシャン)は賃金の安さが嫌で退職し、華やかそうな夜の世界へと飛び込んだ。「中華娯楽城」のボーイとなったシャオホイは同じ湖北出身の女の子リェンロン(リー・モン)と懇意になるが、自分の惚れた女が小金持ちのオヤジたちの性のオモチャとなっているのを直視できない。「ここを出よう。君と一緒ならどこでもいい」とリェンロンに告白するが、彼女は故郷に小さな子どもがおり、仕送りを送らなければいけない身だった。お金がなければ、恋をすることも未来を夢見ることもできない。絶望感に覆われたシャオホイは、強烈な破壊衝動に駆られる。

 北京にある華やかなテーマパーク、でも張りぼての世界で働くコンパニオンを主人公にした『世界』(04)、三峡ダムの建設で沈みつつある『三国志』ゆかりの地・奉節で撮影した『長江哀歌』(06)など、ジャ・ジャンクー監督は中国の激変ぶりを庶民の視点から一貫して描き続けている。社会の変化に対応できないスリ師を主人公にしたデビュー作『一瞬の夢』(97)はベルリン映画祭ほか世界各地の映画祭で高く評価されたが、国の許可なく海外の映画祭に出品したことを監督仲間や当局から咎められ、長年にわたって中国国内での活動禁止処分を喰らっていた気骨ある映画監督だ。中国で表立った活動ができなかったジャンクー監督を支え続けてきたのが、「東京フィルメックス」のプログラム・ディレクターとして知られる市山尚三氏。市山氏が所属するオフィス北野が資金面や海外セールスをサポートしてきたことで、ジャンクー監督は映画製作を続けることができた。『罪の手ざわり』も市山氏がプロデューサー、オフィス北野の森昌行社長が製作総指揮に名を連ね、日本ではオフィス北野とビターズ・エンドが配給を手掛けている。ジャンクー監督初のバイオレンス映画といえる本作だが、北野武監督作品でおなじみキタノブルーに彩られたオフィス北野のオープニングロゴがすごくよく映える。

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