「強すぎるとヒーローは怪人と変わらない」『BORDER』が示す、刑事ドラマのボーダーライン
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一転して、シリアスに石川が初めて“敗北”感を味わうのが第7話だ。
「犯人を追い詰めるのをやめない刑事か。いいね、ロマンティックだ」
そう不敵に笑うのは“掃除屋”と呼ばれる裏社会の証拠隠滅請負人・神坂(中村達也)。
深夜の街角で大学生がひき逃げされ、死亡した。目撃者が車のナンバーを覚えていたので、逮捕も時間の問題だった。しかし、そのひき逃げ犯・宇田川(矢野聖人)は大物政治家の息子だったのだ。
程なくして目撃者や関係者は証言を翻し、宇田川が犯人だと裏付ける証拠の痕跡は“掃除”されるように消えていった。もちろん、神坂の工作によるものだ。
それでも石川は、宇田川の車に同乗していた恋人を足がかりに、情報屋やハッカーたちを使って犯人を追い詰めようとしていく。やがて、宇田川の恋人が死体として発見される。そして石川と対峙した神坂は、再び不敵に笑う。
「お前がイキがればイキがるほど、弱い人間が犠牲になっていくぞ。自分のせいで人が死んだ気分はどうだ?」
神坂を演じる中村達也はBLANKEY JET CITYのメンバーとして活躍した伝説的ドラマー。役者として『週刊真木よう子』(テレビ東京系)やNHK大河ドラマ『龍馬伝』などにも出演し、強烈な存在感を発揮していた。今回の神坂役も、その漂う“ヤバい”雰囲気に圧倒的な説得力を持っていた。結局、神坂の計略にまんまと引っ掛かり足止めされた石川は、宇田川の海外逃亡を許してしまう。
「世の中狂ってますよね。でもだからこそ、私とかあなたのような人間が活躍できるんです」
神坂に敗北した石川は暴走し、刑事としてのボーダーラインを越えようとする。ハッカーのサイモンとガーファンクルに、宇田川の犯罪のウワサをネットで拡散してほしいと頼むのだ。
「僕たちを使ってリンチしようってこと?」
2人は悲しそうにパソコンの電源を落とし、石川に背を向けるのだった。
「強い光が差すところには、必ず濃い影も浮かぶものだ。影に飲み込まれるなよ」
と石川に市倉は言った。
石川は「生」と「死」のボーダーラインに立ちながら、「光」と「影」の境目で揺れ動く。
「ヒーローは必要だ。だがな、強すぎるとヒーローは怪人と変わらないんだ」
『BORDER』は一見、斬新で奇抜な設定の強すぎるヒーローの物語だ。だが、それを成立させるためにさまざまな工夫を凝らし、ドラマとしての危ういバランスのボーダーに立っている。そしてコメディタッチからシリアスな展開まで自在に変化しながら、刑事ドラマ本来が持つバラエティに富んだ魅力を発揮している。それこそが刑事ドラマの「王道」であり、魅力的な刑事ドラマのボーダーラインなのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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