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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 刑事ドラマのボーダーライン
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第57回

「強すぎるとヒーローは怪人と変わらない」『BORDER』が示す、刑事ドラマのボーダーライン

border0528.jpg『BORDER』テレビ朝日

 殺人事件の被害者(つまり死者)と話ができるとしたら、刑事として最強である。犯人はもちろん、殺害方法も被害者の“証言”でたちどころに分かってしまうのだから。あまりにも最強すぎて、ドラマとして成立しないのではないか――。ドラマを見る前はそう思っていたが、そんな浅はかな予想を見事に裏切ったのが『BORDER』(テレビ朝日系)だ。直木賞作家・金城一紀が原案、脚本を務め、主演は小栗旬。

 主人公・石川安吾はある事件で弾丸を頭に受け、瀕死の重傷を負った。仮死状態から奇跡的に蘇生した石川はこの日以降、死者と話せるようになったのだ。石川が死者と話せることで、たとえ犯人が分かったとしても、直ちに犯人を逮捕できるわけではない。死者の“証言”では立証できないから証拠が必要だし、警察という組織である以上、捜査方針もある。このあたりの障壁の作り方が巧みだ。また、“死者”役が被害者ではなく、自殺した犯人だったり、殺されても仕方がないような男だったり、死んだ瞬間に記憶を失っていたりと変化に富んでいて、視聴者をまったく飽きさせない。

 石川とともに事件を捜査するのは、上司で石川を目にかけている市倉(遠藤憲一)、同僚でライバルの立花(青木崇高)、特別検視官の比嘉(波瑠)。石川はもともと正攻法で捜査するタイプだったようだが、死者と話せるようになって最短距離を選ぶようになっていく。その結果、情報屋の赤井(古田新太)や便利屋のスズキ(滝藤賢一)、そしてハッカーのサイモン(浜野謙太)とガーファンクル(野間口徹)といったダークサイドの面々に協力を仰ぎながら、死者の無念を晴らすため“汚い”手段を用いてでも事件を解決していくようになった。

 第5話のゲスト、つまり死者役は宮藤官九郎だった。閑静な住宅街でサラリーマン風の男の死体が発見される。最近頻発する、ノックアウト強盗の被害者なのではないかと疑われる事件だった。

 そんな死体の脇に体育座りで佇む、見るからに情けない風貌の男がクドカンだ。

「何かすごく大事なこと、忘れてる気がするんです。お願いします! 助けてください! こうなったら自分が誰か、なんで死んだか思い出すまで、あなたのそば離れませんからね」

 その言葉通り、男は石川のそばを背後霊のように離れることなくついていく。自分の検死にも立ち会うと「あんなきれいな人(波瑠)に触られてる……。なんか興奮してきた!」「エグいなぁ! ちょっとしんどいんで見なくてもいいですか?」などと言って、石川に「黙れ。死人らしくしてろ」とたしなめられる始末。やがてノックアウト強盗の犯人が捕まるが、男の記憶は戻らない。だが、夫の死を知った妻の姿を見て、ようやくすべてを思い出すのだった。仕事で悩みを抱えていた男は、それを妻に言えないまま「出張」とウソをついて会社を休み、生まれて初めての風俗に行こうと思い立ったのだという。だが結局、風俗には行けず、お酒を浴びるように飲んだ男は、帰り道にチェーンを飛び越えようとして転んで胸を強打。朦朧としながら歩きつまずいて、さらに電柱で頭部を打ちつけたのだ。「事件」ではなく、ただの残念すぎる「事故」だった。

「失礼ですが……、コメディ映画のような展開ですね」

 まさにコメディ。石川と男の会話劇は実にコミカルで面白い。だが、最後は感動的なシーンに結実していくのだ。役者・宮藤官九郎の魅力が最大限発揮されたエピソードだった。

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