『オトナ帝国』と『戦国大合戦』が“傑作”の理由 映画『クレしん』シリーズの魅力【原恵一/後編】
【オタクに”なるほど”面白い!オタクニュース・ポータル「おたぽる」より】
――この時期に観たいアニメとしてお勧めの劇場版『クレヨンしんちゃん』。そんな劇場版『クレしん』の魅力を監督別に特集。第3回は、原恵一が監督を務め、シリーズ最高傑作との呼び声も高い『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』『アッパレ! 戦国大合戦』の2作品で、こんなところを知っていると観方が変わって面白いという見どころを紹介していこう!
第1回【本郷みつる編】はこちらから。
第2回【原恵一編(前編)】はこちらから。
【原恵一編(後編)】
■『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』
本作は大人向けに振り切った作品だと原監督は語っている。原監督作品で小出しにされてきた要素がここにきて、ようやく凝縮された形で表出した。それが『オトナ帝国の逆襲』である。
大人が童心に帰って、20世紀を追体験し、自分自身の思い出に出逢えるテーマパーク・20世紀博。日本各地で開催されている20世紀博に、ひろしとみさえはご執心だが、しんのすけとひまわりは、親たちだけが楽しんでいる状況にうんざりしていた。そんな20世紀博からのお知らせがTVで流された。「明日、迎えに上がります」これを見た大人たちは家事や仕事、子供たちを放棄して遊び惚け、20世紀博からの迎えに喜び勇んでついていく。しんのすけら子供たちは置いてけぼりにされてしまった。これは秘密結社イエスタデイ・ワンスモアの陰謀だった。首謀者のケンとチャコは大人たちを古き良き時代“昭和”のニオイで洗脳し、懐かしい過去に回帰させようとしていたのだ。これを知ったしんのすけたちは両親を取り戻そうと行動を開始する。
それまでの劇場版クレしんでは、日常を非日常が浸食していく過程が描かれてきた。しかし、本作では20世紀博という非日常がすでに浸食している姿から物語が始まっている。昭和の町並みを再現した20世紀博の夕日町銀座商店街の佇まい、ジャイアント馬場VSデストロイヤーの試合(毎回、三菱電機製の掃除機「風神」がマットを掃除した)、ウルトラマンを思い起こさせるヒーローSUNや魔女っ子(魔法少女ではなくてあえて魔女っ子)を思わせる魔法少女みさりん。ケンとチャコは人気を博した子供向けドラマ『チャコちゃん』『ケンちゃん』シリーズからであるし、挿入歌はBUZZ「ケンとメリー 愛と風のように」、ベッツィ&クリス「白い色は恋人の色」、ザ・ピーナッツ「聖なる泉」、吉田拓郎「今日までそして明日から」と、当時を生きた大人ならば、何かしら琴線に触れるものばかりが登場している。
本作が支持される一番の要因は、本当の敵がイエスタデイ・ワンスモアのケンでもチャコでもなく、“懐かしさ”であることに尽きるだろう。
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