才気あふれる日本の若き監督たちが描く“現代の家族”『ぼくたちの家族』『オー!ファーザー』
#映画
今週取り上げる最新映画は、極めて現実的な家族の問題と奮闘の様子を優しいまなざしでとらえた傑作ドラマと、およそ非現実的な構成の疑似家族が生み出す奇想天外の痛快コメディ。才気あふれる日本の若き監督たちが描く「現代の家族」、どちらも味わい深く示唆的だ(どちらも公開中)。
『ぼくたちの家族』は、昨年『舟を編む』で国内外から高い評価を得た石井裕也監督が、崩壊の危機に瀕した家族の奮闘を描くヒューマンドラマ。郊外の新興住宅街で暮らす若菜家の母・玲子(原田美枝子)は物忘れがひどくなり、病院で検査を受ける。「末期の脳腫瘍で余命1週間」と宣告され、父(長塚京三)、妻の第1子出産を控えた長男・浩介(妻夫木聡)と次男の大学生・俊平(池松壮亮)はそれぞれ動揺する。認知症に似た症状が強くなった玲子は、家族に隠してきた本音を吐露。男3人はさまざまな問題に直面しながら、最後の「悪あがき」を決意する。
原作は早見和真の同名小説。母の重篤をきっかけに、バラバラの家族が現実を直視したあとで絆を取り戻していく筋立ては、ジョージ・クルーニー主演の感動作『ファミリー・ツリー』の日本版といった趣だ。記憶があいまいになって約束を忘れたり、脈絡ない発言をしたりして夫や息子たちを困惑させる玲子の症状は、認知症などの脳障害の家族を持つ観客の胸にとりわけ強く迫るはず。責任感の強い兄と頼りない弟という序盤の印象が、過去のいきさつが明らかになるにつれ、微妙に変化する見せ方もいい。兄弟が急な階段を登った丘から眺める郊外の風景に象徴されるように、これは紛れもなく現代日本の家族を真摯に見つめる物語。崩壊の危機を迎えたとき、本音でぶつかり合うことで変わり出すもの、決して失われない絆を信じさせてくれる力作だ。
『オー!ファーザー』は、伊坂幸太郎の大ベストセラー小説を岡田将生主演で映画化したサスペンスコメディ。職業も性格もバラバラな4人の「父親」と暮らす高校生・由紀夫(岡田)は、彼らの過剰な愛情に煩わしさを感じつつも、奇妙な同居生活をそれなりに楽しんでいた。だがある日、街の賭博(とばく)場でカバンのすり替え事件を目撃した由起夫は、好奇心に突き動かされてとった行動が原因で、謎の武装集団に拉致監禁されてしまう。4人の父親たちは、愛する息子を救うことができるのか……。
日本大学芸術学部在籍時に本作の脚本を依頼された藤井道人が、幸運な商業映画監督デビューもつかみ取った。4人の父親役は佐野史郎、河原雅彦、村上淳、宮川大輔。各自の持ち味を生かしつつ、達者なアンサンブルで特殊な疑似家族のあり方を提示した。由紀夫にウザがられながらもまとわりつき、父親たちとも意気投合するヒロインを忽那汐里が好演。気の合う仲間とがんばれば何とかなるさ、と前向きな気持ちになれる本作で、五月病や梅雨の憂うつを吹き飛ばしていただきたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ぼくたちの家族』作品情報
<http://eiga.com/movie/78572/>
『オー!ファーザー』作品情報
<http://eiga.com/movie/78802/>
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