戦争中のベトナムで撮影した幻の作品が初公開!『ナンバーテン・ブルース/さらばサイゴン』
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数奇な星のもとに生まれた1本の日本映画が劇場公開される。その映画のタイトルは『ナンバーテン・ブルース/さらばサイゴン』。ベトナム戦争の末期、陥落が迫っていた南ベトナムの首都サイゴン、現在は世界遺産に登録されている古都フエ、政府軍最大の軍事拠点だったダナンなどでオールロケ撮影したロードムービー仕立てのクライムアクションだ。深作欣二監督の『恐喝こそ我が人生』(68)、藤田敏八監督の『修羅雪姫』(73)、市川崑監督の『犬神家の一族』(76)など日本映画史に残る傑作映画のシナリオを手掛けた脚本家・長田紀生にとって『ナンバーテン・ブルース』は初監督作品になるはずだった。北ベトナムによる全面攻撃が直前に迫っていた1975年1月〜3月に撮影され、4月にサイゴンでアフレコを済ませものの、この映画は日本で公開されることなくお蔵入りしてしまう。
主人公である日本人商社マンのアンチヒーロー色が強いことにプロデューサーが難色を示したことと、配給を予定していた大手映画会社が高額な保証金を要求したことなどがお蔵入りの要因だった。スタッフとキャストが命懸けで撮った『ナンバーテン・ブルース』は一般公開されることなく姿を消してしまう。ところが2012年になって、行方不明状態となっていたフィルムが東京国立近代美術館フィルムセンターに保存されていることが判明する。残されていたプリントは色褪せていたものの、ネガフィルムをデジタル化した素材を編集し、撮影から39年目にして『ナンバーテン・ブルース』はついに劇場公開に。ベトナムから帰国後は再び脚本家生活に戻っていた長田紀生は、71歳にして監督デビューを果たすことになった。
『ナンバーテン・ブルース』の主演は川津裕介。人気テレビドラマ『ザ・ガードマン』や『ワイルドセブン』などアクションもので人気のあったスター俳優だ。大島渚監督の『青春残酷物語』(60)に主演するなど、映画では屈折した役を好み、『恐喝こそ我が人生』でも殺し屋役で強い印象を残している。『ナンバーテン・ブルース』のストーリーはこうだ。日本から単身やってきた商社マンの杉本俊夫(川津裕介)はサイゴンで気ままな生活を謳歌していた。高度経済成長を遂げた日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と海外でもてはやされた。ある日、杉本は現地で雇ったベトナム人の青年を金銭トラブルから誤って殺してしまう。戦争真っただ中の南ベトナムで警察や裁判所の世話になるのはご免だと杉本は海外逃亡を決意。杉本の恋人である歌手のラン(ファン・タイ・タン・ラン)、日本人とベトナム人のハーフである若者タロー(磯村健治)に窮地を救われた杉本は、3人で戦車や装甲車が点在する戦地を駆け抜けて北上していく。しかし、杉本が商社から横領した大金に目を付けた裏社会の追っ手が行く手を阻むことに……。
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