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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.268

池脇千鶴が“ジョゼ虎”以来となる本格覚醒だ! 10年に一度の勝負作『そこのみにて光輝く』

hikarikagayaku02.jpg達夫の職業は、造船会社の元社員から採石場の爆破技師に変更。達夫(綾野剛)も千夏(池脇千鶴)も、死の影に囚われながら生きてきた。

 童顔な印象のある池脇だが、黒い下着姿がなんともエロ哀しい。自分の股を開くことでしか稼ぐことができないという自己嫌悪と、家族を見捨てることができない健気さが複雑に絡み合う。20代の頃のピチピチした若さとは異なる、30代の緩み始めた裸体が、この千夏という女性のやりきれなさを雄弁に物語っている。裸になることで、ひとりのキャラクターをここまで饒舌に表現できる女優もそうそういないはずだ。押し潰されてもおかしくない不幸を背負い込みながらも、千夏はしっかりと地に足を付けて生きている。根なし草のような生活を送ってきた達夫にとって、千夏はかけがえのない女となっていく。北国の短い夏、綾野剛と池脇千鶴が海中で立ち泳ぎしながら、お互いの体を求め合うシーンが激しく、切なく描かれる。

 第1部と第2部に分かれている原作小説を、思い切った脚色で2時間の尺にまとめてみせたのは、『さよなら渓谷』(13)の脚本家・高田亮。『さよなら──』の真木よう子もチャーハン作りを得意にしていたが、『そこのみ──』の池脇が作るチャーハンもうまそうだ。脚本家・高田亮にとって、いい女とはセックスだけでなく、チャーハン作りが得意なことも必須条件らしい。若手女性監督・呉美保の起用も、『そこのみ──』を味わい豊かなものにしている。呉美保監督は1977年生まれの大阪芸大出身(山下敦弘監督と同期)。関西を舞台に『酒井家のしあわせ』(06)『オカンの嫁入り』(10)とほんわか系のホームドラマで評価を得てきた。そんな呉監督に、男と女の情交シーンをたっぷり盛り込み、さらにバイオレンスシーンもあるハードボイルドタッチの作品の演出を任せたことで、型にハマらない瑞々しいものに完成したように思う。

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