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話題騒然のドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』の監督が激白!

ホンモノの殺人者たちが演じた戦慄の再現映像!!「彼はアカデミー賞を受賞することを望んでいた」

aok_sc_02.jpg孫の前では笑顔を見せるアンワル・コンゴ。自分たちがやったことを包み隠さず後世に伝えたいと、映画出演に積極的に応じた。

■殺戮者は、自分から殺される役を演じ始めた

──最初は自慢げに武勇伝を再現していたアンワルは、殺された側を演じたことで顔色が変わり、罪の意識を訴えるようになっていきます。犯罪者の更生システムに似たような心理療法がありますが、意識しましたか?

ジョシュア 答えはノーです。今回の撮影で何かを参考にしたということはありませんし、僕から「こういうシーンを撮ろう」と誘導することもしていません。あくまでも、彼らが「こんなシーンを撮ろう」と言いだすのを待って、彼らがそのシーンを自由な形で再現する様子をカメラに収め、撮影したシーンを彼らに見せ、さらに次のシーンに移る、ということの繰り返しだったんです。映画でも触れていますが、アンワルさんは僕と会った初日に、自分がやった過去に対してトラウマを抱えていることをほのめかしたんです。「トラウマを忘れるために酒を呑み、ドラッグをやり、踊るのだ」と言ってカメラの前で踊ってみせたんです。その踊っているシーンをよく見てもらえると分かると思いますが、踊っているアンワルさんの首には針金が巻いてあるんです。会った初日からアンワルさんは「彼らがどのように息絶えていったのか演じてみせよう」と自分から首に針金を巻き付け、殺された側も演じてみせたんです。

──なるほど、それで41番目に出会った彼が、映画の中心人物となっていったわけですね。

ジョシュア アンワルさんと出会ったことで、僕は初めて分かったんです。彼らが自慢げに過去の殺戮を語ってみせるのは、自分が犯したことが過ちだったと気づいているからこそ、その事実をごまかすために自慢しているんだと。コインの裏表と同じように、彼らは自慢しながら同時に悔恨しているのではないかと考えるようになりました。アンワルさんは初日から悪夢に悩まされていることを打ち明けてくれました。さらにはどのような悪夢を見ているのか、その夢の様子も再現してくれたわけです。とても興味深く、もっと掘り下げたいという気持ちも抱きましたが、僕から誘導するようなことはしていません。先ほど犯罪者の更生システムに似ていると指摘されましたが、もし僕が心理セラピストだったら、患者に対して100%の忠実さで対応していたでしょう。でも、僕が忠誠を誓ったのは遺族側や人権委員会に対してです。その点でも違うと思います。また、殺戮者が懺悔するという方向に僕から誘導していったのなら、もっとセンチメンタルでイヤらしい終わり方になっていたと思います。僕はそうならないよう、抗いながら映画の終わり方を模索し続けました。

──本作は今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。本作がアカデミー賞を受賞することをアンワルは望んでいたと聞いています。それは「自分が主演した映画がアカデミー賞に選ばれた」という名誉欲からではないんですね?

ジョシュア 俳優賞ではないので、彼個人がオスカー像をもらうことは当然なかったわけです。でも、彼は『アクト・オブ・キリング』がアカデミー賞に選ばれることを望んでいました。自分の物語を世界中の人たちに知ってほしいという思いが強かったんです。『アクト・オブ・キリング』という作品に参加したことに彼はとても意義を感じ、映画ができあがったことに感動していたんです。もちろん、それは自分たちが過去にやった行為が犠牲者の遺族や社会に対してどういう意味があったのかを受け入れた上でのことです。

──『アクト・オブ・キリング』は、決してインドネシアだけの物語ではないと感じました。どの国でも今の政治体制ができあがる際に汚れ仕事を請け負う人たちがいたし、汚れ仕事を請け負った人たちは、望むと望まざるともかかわらず、裏社会の顔役になっていったわけですよね。

ジョシュア 同感です、僕もそう思います。さらに言えば、過去の物語でもありません。例えば、僕たちが着ているシャツなどの衣服の多くは南半球側の発展途上国の工場で作られたもので、そこで働く人たちは、それこそアンワルさんのような汚れ仕事を請け負う怖い人たちに脅されながら労働しているわけです。インドネシアでは昨年の10月、安い賃金で衣服を作っている労働者たちがデモ行進したところ、先頭を歩いていた人が権力側に雇われたギャングに凶器で殴りつけられるという事件もありました。『アクト・オブ・キリング』で描かれた支配構造や暴力の図式はインドネシアや遠い国だけの問題ではなく、日本も含めた先進国も関係していることなんです。
(取材・構成=長野辰次/撮影=名鹿祥史)

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『アクト・オブ・キリング』
製作総指揮/エロール・モリス、ヴェルナー・ヘルツォーク、アンドレ・シンガー 製作・監督/ジョシュア・オッペンハイマー 共同監督/クリスティーヌ・シン、匿名希望 配給/トランスフォーマー 4月12日(土)より渋谷イメージフォーラムほか全国順次公開 
(c) Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012 
<http://www.aok-movie.com>

●ジョシュア・オッペンハイマー
1974年、米国テキサス州生まれ。ハーバード大、ロンドン芸術大学で学ぶ。10年以上、政治的な暴力と想像力との関係を研究するため、民兵や暗殺部隊、その犠牲者たちを取材してきた。サンフランシスコ映画祭ゴールド・スパイア賞を受賞した『THESE PLACES WE’VE LEARNED TO CALL HOME』(97)、シカゴ映画祭ゴールド・ヒューゴ賞を受賞した『THE ENTIRE HISTORY OF THE LOUISIANA PURCHASE』(98)、本作の共同監督であるクリスティーヌ・シン監督とコラボした『THE GLOBALIZATION TAPES』(03)などを監督してきた。本作は2014年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたほか、ベルリン映画祭エキュメニカル審査員賞&観客賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭最優秀賞など世界各国の映画祭と映画賞で数多くの賞を獲得している。現在は息子を殺した男に立ち向かう家族を追ったドキュメンタリー『CO-EXISTENCE(仮題)』を製作中。

最終更新:2014/04/07 18:00
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