日本社会が抱える闇を突きつける、井上真央×綾野剛『白ゆき姫殺人事件』
#映画
今週取り上げる最新映画は、話題の小説を原作とし、人気若手俳優を配した邦画2作品。原作の味わいを再現しつつ、映像ならではの魅力が加わった好作だ。
『白ゆき姫殺人事件』(3月29日公開)は、『告白』の湊かなえの小説を、『アヒルと鴨のコインロッカー』の中村義洋監督、井上真央主演で映画化したサスペンス。日の出化粧品の美人社員・三木典子(菜々緒)が惨殺される事件が起こり、地味な同僚の城野美姫(井上)に疑惑の目が向けられる。ワイドショーのディレクター赤星(綾野剛)は、美姫の同僚や同級生、故郷の家族や住民を取材し、美姫に関する驚くべき証言をテレビで流す。美姫の過去が明らかになるにつれ報道は過熱し、Twitter上で飛び交うウワサも関係者らを翻ろうしてゆく。
地味な外見に多くを秘めた表情の主人公を、井上真央が好演。物語の進展に伴うキャラクターの複雑な変化も見事に体現している。クールな印象が強い綾野剛も、今回は取材で得た情報をツイートしまくる軽薄なテレビマンの役が意外なほどハマった。貫地谷しほり、小野恵令奈、谷村美月、染谷将太ほか共演陣も豪華。伊坂幸太郎の小説の映画化を数多く手がけた中村監督らしく、謎解きの鮮やかな語り口にさりげなくユーモアを添える演出が本作でも光る。子ども時代のいじめからネット上の誹謗中傷まで、日本の社会が抱える闇をあらためて思い知らされるが、ひとすじの希望を示すラストに救われる。
『大人ドロップ』(4月4日公開)は、今年6本の出演作が公開予定の若手実力派・池松壮亮が主演、ヒロイン役に『桐島、部活やめるってよ』の橋本愛で描く青春映画。高校3年生の由(池松)は親友のハジメ(前野朋哉)に頼まれ、彼の片想いの同級生・杏(橋本)とのデートをセッティングしようとして、杏を怒らせてしまう。夏休みに入り、杏が学校をやめて引越すと聞き、モヤモヤした気持ちを抱えて日々を過ごす由。同級生のハル(小林涼子)からは年上の彼氏との恋愛相談を持ち掛けられ、周囲が大人になろうとしていることに焦りを感じ始めるが、杏に会いに行くことを決意し旅に出る。
原作は樋口直哉の同名小説で、監督・脚本は『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』の飯塚健。すでに社会人になった主人公が高校3年のひと夏を回想する体裁になっており、昨今の基準からするとやや奥手な高校生にも感じられるが、大人の観客が自分の青春時代と重ね合わせるにはほどよいリアルさでもある。高校時代、由と杏が出会った小学生時代、そして現在と行き来する構成が効果的で、はっとさせられる印象的なシーンもいくつか。池松壮亮の自然体のたたずまいが素晴らしい。登場人物らのもどかしさ、焦り、衝動が見る者の胸に迫り、忘れかけていた過去の記憶や感情を思い出させてくれるはずだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『白ゆき姫殺人事件』作品情報
<http://eiga.com/movie/78960/>
『大人ドロップ』作品情報
<http://eiga.com/movie/79311/>
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事