「仏教と洋楽の“土着化”は似ている」お寺育ちの西寺郷太が初ソロで挑戦したこと
#リアルサウンド
『TEMPLE ST.』全曲解説+インスパイア・ソング
01. EMPTY HEART
西寺郷太 ソロ・デビュー Single「EMPTY HEART」MV
Donald Fagen/I.G.Y(1982)
Marvin Gaye/What’s Goin’ On(1971)
大滝詠一/君は天然色(1981)
Ralph Tresvant/Sensitivity(1990)
Toro Y Moi/Still Sound(2011)
――ドナルド・フェイゲンの「I.G.Y.」が筆頭に挙がっていますが、今回のソロ・アルバムの制作にあたっては「自分にとっての『Nightfly』をつくりたかった」という思いがあったみたいですね。
西寺:ここでドナルド・フェイゲンを挙げているのは、考え方の部分ですね。やっぱりスティーリー・ダンとドナルド・フェイゲンの関係性が僕にとってのNONAとソロの在り方としての理想だったので。ドナルド・フェイゲンってソロのときも使ってるメンバーはスティーリー・ダンとそんなに変わってなかったりするんですけど、同じようなメンバーでもイーブンの関係でつくれるスティーリー・ダンのときとソロをつくるときでは気持ちが全然違うと思うんですよ。例えば、今回のティトとの共演の件なんかはまさにそうなんですけど、俺と同じ気持ちを(NONAのメンバーである)奥田(健介)や小松(シゲル)に抱いてもらうのはいくら仲が良くても無理じゃないですか。僕のジャクソンズに対する思いは10歳のときからひとりで育ててきたものだから。そういうパーソナルなポップ感を追求しようと思ったのが今回の『TEMPLE ST.』なんですよね。だからソロ・プロジェクトをやるときは基本的には純粋な西寺郷太を聴いてもらいたいんだけど、そこに奥田や小松が必要ならばせっかくの良いミュージシャンなんだから手伝ってもらうっていう感覚……その理想としての「Nightfly」ですね。アルバムのアートワークの部分から、いろんなことを考えるときに象徴として「Nightfly」がありました。あと、『Nightfly』って「I.G.Y.」がかかった時点でもう通して聴いたような感じがするじゃないですか。「EMPTY HEART」にもそういうところがあると思っていて。
マーヴィン・ゲイの『What’s Goin’ On』もそれと同じで、なんか「What’s Goin’ On」みたいな曲ばっかり入ってるような印象がありません? 「EMPTY HEART」ではまさにそれがやりたかったんですよ。これがNONAだったら「こんな曲もあります」「あんな曲もあります」ってことになるんですけどね。「EMPTY HEART」ができたからソロ・アルバムをつくる気になったところもあるし、ストリングスのアレンジも全部「EMPTY HEART」みたいな感じでやってほしいって伝えていたし。それは大滝詠一さんの「君は天然色」にしても同じことがいえるんですけど、『A LONG VACATION』がなんであんなに売れたのかというと、それはやっぱり1曲目の「君は天然色」の多幸感だと思ってるんですよ。そこでもうすでに一回説明が終わってるというか。
――リストをいただいたとき、これはきっとアルバムの1曲目の在り方みたいな話なんだろうなあとは思っていました。“1曲目イズム”というか。
西寺:ラルフ・トレスヴァントの「Sensitivity」に関していうと、これはニュー・エディションのメンバーからソロに転身して最初のシングルですよね。ニュー・エディションはラルフが看板だったグループで、だからこそソロとして出ていくのが難しかったところがあったと思うんですよ。そんななかでジャム&ルイスがプロデュースしたソロ・デビュー・シングルだったわけですけど、あの曲のなんにも起こらない感じ、ラルフの声だけを味わう感じが、「EMPTY HEART」にはあるような気がしていて。自分で言うのもなんなんですけど、「EMPTY HEART」はまったく飽きないんですよ。何回でも繰り返して聴けるというか。そこは「Sensitivity」にも通じるところがあるんじゃないかなって。
トロ・イ・モアの「Still Sound」は音楽的にリアルに影響を受けている曲です。ここ数年のチルウェイヴの流れは自分のなかで面白いと思っていたんですけど、NONAはもうちょっとJ-POPのフィールドに乗っていたから、バンドではなかなか表現できなくて。ベッドルーム・ミュージックでエフェクトがガンガン入っていて、ひとりで全部つくってるあの感じですよね。後半の無駄に長いところはジョージ・マイケルの「I Want Your Sex」にも近いんですけど、パート1とパート2に分かれているあの構成のイメージです。生だったドラムが後半で打ち込みに変わったり、打ち込みだったパーカッションが生に変わったり。同じコードなんだけど、リズムのなかで不思議な違いがあるんですよ。純粋に衝撃を受けたのはこのトロ・イ・モアですね。彼はキャラクター的にも近いと思うんです(笑)。ミュージック・ビデオも出来上がったんですけど、それももろに「Still Sound」のビデオみたいなつくりになってます。今回こだわった点として“モロをやる”っていうのがあったんですよ(笑)。ストーンズ・イズムというか、容赦なくディスコをやってみたりラップに手を出してみたり。そういうのが長生きの秘訣なのかなって。「あ、それ流行ってるんならやろう!」みたいな。チルウェイヴはもうピークは過ぎたかもしれないけど、廃れない何かが確実にありますよね。
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