戦争映画の悲劇のヒーロー像にNOを突き付ける! 戦場で生き残る恐怖と痛み『ローン・サバイバー』
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父親が海軍の歴史研究家で、ユニバーサル記念大作『バトルシップ』(12)を任されるなどハリウッドきっての海軍マニアであることを自認しているピーター・バーグ監督だが、レッド・ウィング作戦の唯一の生還者であるマーカス本人と1カ月間にわたって生活を共にすることで、現地で起きたことをつぶさに吸収した上で本作の脚本を執筆している。その甲斐あって、単なる好戦的な戦争映画とも反戦映画とも異なる渾身の作品に仕上がった。現役シールズ隊員たちが主演したことで話題となった『ネイビーシールズ』(12)がシールズを徹底美化して描いたプロモーション映像だったのに対し、本作ではシールズが犯した大きな過ちにも言及する。マーカスたちから2度連続で定時連絡がなかったにも関わらず、本隊は救援部隊を出動させなかった。マーフィー大尉の命懸けの通信でようやく救援ヘリコプターを緊急発進させるが、護衛機をスタンバイさせていなかったために、ヘリコプターは狙い撃ちされてしまった。いくら最強部隊であっても、指揮系統が機能していなければまったくの無意味。前線に送り込まれた兵士たちは犬死にするしかない。
戦争映画の名作とされる作品の多くが戦場における過酷な現実の中で主人公たちが狂気に侵蝕されていく姿を描いてきたのに対して、マーカスたちシールズ隊員もタリバン兵もどちらも自分たちが信じるもののために迷うことなく生き、そして殉じていくという点も異色に感じる。死の匂いを至近距離で感じながらも自分の信条のために忠実に生き、その信条を守るために生命を投げ出す男たち。仲間を失い、満身創痍状態となったマーカスだが、思いもしなかった相手から救いの手が差し伸べられる。それはアフガニスタンに古来より伝わるパシュトゥーン・ワーリ(パシュトゥーンの掟)だった。「傷ついて救いを要する客人はどんな犠牲を払ってでも守り抜け」という教えに従って、現地のアフガニスタン人はマーカスを救い出す。アフガニスタンの人々はパシュトゥーン・ワーリを守ることで、厳しい自然環境と大国に侵略され続けてきた歴史を生き抜いてきたのだ。
主人公がヒロイックな活躍を見せた後に非業の死を遂げることで、観客の感動と号泣を呼び起こそうとする戦争映画が非常に多い。だが、本作の主人公マーカスは唯一の生存者として粛々と帰還を果たす。それはマーカスを守ってくれた仲間たちが最後の最後までどのように生き抜いたのかを、遺族に伝えるという使命が彼に残されていたからだ。マーカスは重い役割を背負って、母国に帰ってきた。今でも毎晩のようにアフガニスタンの山で起きた出来事にうなされるそうだ。
(文=長野辰次)
『ローン・サバイバー』
原作/マーカス・ラトレル&パトリック・ロビンソン 監督・脚本・製作/ピーター・バーグ 出演/マーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ、ベン・フォスター、エリック・バナ 配給/ポニーキャニオン、東宝東和 PG12 3月21日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー (c)2013Universal Pictures
<http://www.lonesurvivor.jp>
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