大島渚『忘れられた皇軍』、自衛官いじめ自殺事件……『NNNドキュメント』が突きつける日本の闇
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上官「あのさ、あなたの気持ちはわかるよ。組織として隠蔽していると、そういうことがあると……。僕は、ちょっと事実は知らないんだけど。ただね、あなたは組織の中の一人だよな? 組織が組織を訴えるっていうんだよな。ひとつの構図から見ると。それっておかしくないか、お前? お前はこの組織に属しているんだぞ」
3佐「それはそうです。私自身も身を切るような思いです」
上官「だから、もしやるんだったら、あなた自衛隊を辞めてね、『こういうことがある、そういった組織だ』ってやるべきじゃないのかな? 中にいてこういうことをやるっていうのは、非常にまずいよな、と俺は思うけど。俺だったらね。組織を離れてやるべきだ。組織の中ではやっちゃいかんよ」
自衛隊を辞めろ、という口ぶりである。そして3佐には、内部資料をコピーしたということで「被疑事実通知書」が届き、懲戒処分が検討されているという。それでも3佐は組織にとどまり、現職を貫いている。
裁判での証言を終えた3佐は言う。
「私のことを懲戒処分にしてやろうとか、いきんでる上層部がいる一方で、私の同僚なんかは自然に接してくれるんで、まぁ普通に仕事しているような状態なんですよ。不思議なもんでね。たぶん明日も変わらない一日が来るような気がします」
被害者の母は、3佐に最初にかけられた言葉が忘れられないという。
「お母さん、私に感謝しないでください。私は組織を良くするためにしていることですから」
陳述書を出した2カ月後、事態は急転する。当時の海上幕僚長が異例の臨時会見を開き、アンケートが見つかったと謝罪したのだ。「不適切な文書管理」が原因で、今まで見つからなかった。つまり「隠蔽」ではない、と。
アンケートには、先輩隊員からの暴行などの事実が克明に書かれていた。現役の自衛隊幹部が自らの組織の不正を暴くため、さまざまな葛藤をしながら覚悟して立ち上がり、ようやく明るみに出た真実。
「私は組織のために仕事をしているわけではなくて、国民のために仕事をしているつもりでいますので、私の態度は矛盾したものではないと思っています」
3佐はそう言って、また組織の中に帰っていった。
前述の「反骨のドキュメンタリスト 大島渚『忘れられた皇軍』という衝撃」で是枝裕和は「大島さんが生涯批判し続けたのは、被害者意識というものだった」と評している。「『あの戦争は嫌だったね。つらかったね』という、自分たちが何に加担したのかってことに目をつぶって、被害者意識だけを語るようになってしまった日本人に対して、『君たちが加害者なんだ』ということを、あの番組で突きつけているわけです」と。
“被害者意識”は、言い換えれば“当事者意識の欠如”だ。それは、現在の日本に根深く横たわる問題だ。3等海佐が戦った敵は“組織”だけではない。「自分には関係がない」「悪いのは自分じゃない」そんな一人ひとりの意識だ。それが集まると、それは巨大な壁となり、強い圧力になる。隠蔽やいじめを知りながら、見て見ぬふりをしていた組織の中の人たち。そして、そんな体質を薄々分かりながらも「まあ、組織ってそんなもんでしょ」「いじめなんて、どこにでもあるよ」としたり顔で冷笑し、何もしない組織の外の私たち……。
「日本人たちよ、私たちはこれでいいのだろうか?」
『NNNドキュメント』で我々日本人は、あらためて問われている。
「これでいいのだろうか?」
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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