実は本格的なしゃべり手? 元・フジ平井理央の意外な才能が開花する『WONDER VISION』
#平井理央 #ラジオ
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本稿執筆時では、みのもんたの担当番組終了と、4月からの新番組開始がアナウンスされている。だが、自分が生まれる前からしゃべっている人に対し、何かいえるほどの人間ではない。身の丈をわきまえつつ、当コラムに取り組ませてもらう。
さて、今回紹介するのは『WONDER VISION』。J-WAVEで日曜日の朝6時から9時まで放送されている番組だ。ナビゲーター(しゃべり手をJ-WAVEではこう呼ぶ)は平井理央。幼い頃からアイドルとして人気を博し、大学卒業後にフジテレビへアナウンサーとして入社。2012年に結婚・退社し、フリーへと転身した……という経歴は、日刊サイゾーをご覧の方ならご存じだろう。
番組開始は昨年4月。コンセプトは「ソーシャルデザインを合言葉に、より楽しい世の中を作るためのヒントを探す」。番組の趣旨に横文字が多く、放送局がオシャレ。……ラジオが好きな人ほど、敬遠してしまいそうだ。
だが、それらを補って余りあるほどの魅力が、平井理央のしゃべりにはある。まず第一に、口調に押しつけがましさが一切ない。そのため、堅苦しくなってしまいそうなコンセプトの番組を、非常に楽しく聴かせてくれるのだ。本人もインタビューで、「私、人間の中身として適当だったりとか、ちょっとひょうきんな部分もあったりして」(『ラジオ番組表2013年春号』三才ブックス)と話しているが、その性格が反映されているのである。
また、声だけで感情を表すのが抜群にうまい。楽しい話題のときは明るい声でしゃべり、悲しい話のときは少しトーンを落とすといった基本的な手法ではあるのだが、その微妙な変化でリスナーに自分の気持ちを伝え、共感を得ることができる。映像を見せ、自分の感情を隠して情報を伝えるテレビのアナウンサー出身とは思えない技を持っているのだ。
一方でゲストが来たときには、元アナウンサーの腕を惜しみなく披露してくれる。話の聞き役に徹して情報を引き出した上で、相手のトーク力に合わせた会話ができるのだ。その長所が遺憾なく発揮されたのが、今月16日の放送であろう。この日の番組テーマは、「いいチームの作り方」。ゲストに専修大学附属高校の教師と、元プロ野球選手の古田敦也を迎えた。同時にではないが、同じ日に技量がまったく異なる2人とトークをしているわけだ。
前者は、日本で唯一「チーム作り」という授業を行っている教師。授業内容や始めたきっかけなどを尋ねたのだが、教師は「具体的にどんなことをするのか?」という問いに、「“アイスブレイク”といって、ミニゲームなどのレクリエーションを学んだりします」と答えた。これだけでは、授業内容も効果もリスナーには伝わらない。そこで彼女は、「ゲームを学ぶと、どういうことが起こるんですか?」と質問し、相手をフォローしている。しかも優しい口調で何気なく、である。こうして相手の緊張を徐々にほぐし、気持ちよくしゃべらせることに成功している。
後者は言うまでもなく、東京ヤクルトスワローズで選手兼監督を務めたほどの人物だ。頭の回転が速く、質問者の意図を察して回答できるため、現役時代からしゃべりには定評がある。そこで彼女は、「今、お話をうかがっていて、『はい、監督!』って言いそうになりました」なんて変則的な返答を交えながらトークを進めた。彼女にこのようなちょっとした冗談を入れられるセンスと、入れていいタイミングを見計らう能力があるからこそ、『WONDER VISION』から「気取った番組」といった嫌な臭いがしてこないのだ。
そして彼女は、相手に合わせるだけではなく、自分の考えを論理立ててしゃべることもできる。番組のエンディングで感想を述べるのだが、本番中に聞いた話や出来事を交えながら的を射た総括をしている。3時間で何を伝えるべきか、本当に伝えられたかを客観的に分析できている証拠といえよう。容姿や声のかわいさが取り上げられがちだが、実は本格的なしゃべり手。それが平井理央なのである。
最後にもう1つだけ。『WONDER VISION』のようなコンセプトの番組では、評論家や何らかの教授といったお堅い肩書の人をしゃべり手にしてしまいがちである。その中で、彼女をナビゲーターに据えたスタッフの慧眼に拍手を送りたい。こういったチャレンジの積み重ねが、ラジオ人口の増加につながっていくのではないだろうか。
(文=豊田拓臣/文中敬称略)
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