野球漫画ルーキーズがドキュメンタリー映画に!? 球児を救うはずが借金地獄『ホームレス理事長』
#映画 #パンドラ映画館
ネットカフェで暮らす山田理事長がパソコンを相手にオセロゲームに興じるシーンが印象的に挿入される。オセロゲームは4つある角を先に抑えることが勝利のセオリーであることは小学生でも知っているが、理事長はあえてこのセオリーの逆を行く。4つの角を奪われて圧倒的に不利な状況から逆転勝利することに喜びを見出す。ひと言でいえば、この理事長はおかしな人、ただの変人にすぎない。でも、そんな変人でなければ、落ちこぼれた球児たちが再生できる受け皿を作ろうなんて思わないし、行動に移さない。頭のいい人はもっと効率よく、お金儲けできるビジネスのほうへ行ってしまう。宮沢賢治の詩に登場するデクノボーそのものではないか。社会から脱落しかかった子どもたちを救おうとして、自分自身が社会の最底辺へと堕ちていく理事長。あまりにも支離滅裂で矛盾に満ちた男をカメラは追い続ける。
およそ4年間にわたってNPO法人ルーキーズを取材してきた土方ディレクターはこう語る。「ボクシングに例えるなら、山田理事長はすでに完全KOされているボクサー。不思議なことに、それでも理事長はリング上に立ち続けているんです。自分からは決して負けを認めようとしない。負けを認めないから、負けることがない。勝つことはないけど、絶対に負けない人。ルーキーズは赤字経営ですが、あの理事長がいる限り潰れることはないと思います」。
このドキュメンタリーはルーキーズの内情をあまりにも赤裸々に伝えており、ルーキーズのプロモーションには全然なりそうにない。だが、とてつもない人間賛歌のドラマに仕上がっている。こんなにデタラメで、無計画で、かっこ悪い人生を送っていても、ルーキーズの理事長は堂々と図太く全力で生きている。どんなに借金まみれになっても、高邁な志だけは掲げることをやめようとしない。……と、何とかいい話でまとめようとしたのだが、クライマックスで理事長は長年取材してきた土方ディレクターもルーキーズ関係者も観客も開いた口が塞がらないような奇ッ怪な行動に走る。生きるということは不可解さの連続である。理事長はそのことを体現化した、まさに生きた教科書だった。
(文=長野辰次)
『ホームレス理事長−退学球児再生計画−』
プロデューサー/阿武野勝彦 音楽/村井秀清 音楽プロデューサー/岡田かずえ 撮影/中根芳樹 音声/栗栖睦巳 効果/久保田吉根 TK/河合舞 編集/高見順 監督/土方宏史 制作・配給/東海テレビ 配給協力/東風 2月15日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
(c)東海テレビ放送
<http://www.homeless-rijicho.jp/>
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