野球漫画ルーキーズがドキュメンタリー映画に!? 球児を救うはずが借金地獄『ホームレス理事長』
#映画 #パンドラ映画館
このドキュメンタリーは生半可ではないな。そう思い始めた矢先、カメラはNPO法人ルーキーズを設立した山田豪理事長をクローズアップしていく。グランド、寮、ユニフォーム、室内練習場、移動バスを備えたルーキーズの経営は赤字まみれだ。山田理事長は毎日金策のために走り回っている。チーム運営のためのミーティングに参加できないほど忙しい。夜、ようやく自宅のアパートに戻る理事長。晩ご飯はバナナだけという侘しい中年男のひとり暮らし。それにしても理事長は自宅に戻ってから灯りを点けようとしない。ん、もしかして? そう、ルーキーズの借金返済に追われ、自宅の電気・ガス・水道は停められてしまっているのだ。数日後、理事長はネットカフェで寝泊まりするようになる。家賃を滞納し、ついにネットカフェ難民に。ここまで観た人は誰もが思うだろう。子どもたちの世話を焼く前に、まず自分自身の生活をどうにかしろよッ!
ドキュメンタリーを作る上であまりにも美味しい素材を見つけてしまったのは東海テレビのひじ(「土」に「、」=以下「土」)方宏史ディレクター。本作が初めてのドキュメンタリー番組だ。ところが、美味しすぎる素材を追い掛けるうちに、土方ディレクターたちもただの傍観者でいられなくなってしまう。車の中で待機していた土方ディレクターらは山田理事長に呼び出されて、ぞろぞろと車外へ。そうです、あなたの予感は当たりました。借金返済の期限が迫った理事長は「筋違いかもしれませんが、助けてください」と頭を下げる。土下座までして、取材クルーにお金を無心する。1日だけでいいので20万円ほど貸してほしいと。いや、それはちょっと。「何が足りないのですか?」と泣きながら訴える理事長に対し、土方ディレクターは「被写体に関わることで状況を変えることはできません」とドキュメンタリー取材者としての正論を繰り返すことしかできない。こんな状況を記録できるはずがないと音声マンがマイクを片付けて撤収しようとするのを、カメラマンは片手で引き止める。頭を地面に擦り付け、ボロボロと涙をこぼすこの中年男から、目を逸らすことは許されない。それがドキュメンタリー取材者としての最低限の礼儀なのだ。土方ディレクターによると、このシーンの撮影でカメラマンは泣きながらカメラを回し続けたそうだ。
山田理事長の暴走はますます続く。借金返済に行き詰まった理事長の手には闇金融の借入申込書が握られている。さすがに見かねた取材クルーは「危ないんじゃないですか」と口を挟むが、このときの理事長は驚くほど毅然とした表情で言い放つ。「何が危ないんですか? ルーキーズがなくなって、子どもたちを守れなくなるほうが危ないんです」。もはや誰も理事長を止めることができない。自宅を失いながらも、ルーキーズ存続のために頭を下げて寄付金を募り続ける山田理事長。グランドで子どもたちを厳しく指導する池村監督も前任地・岡山の高校では体罰指導が問題視され、高校球界を去るはめになった過去が明らかになる。理事長にとっても監督にとっても、ルーキーズが唯一の心の拠り所なのだ。このドキュメンタリーは子どもたちが再生を目指す夢物語である以上に、人生の奈落へと追い詰められた大人たちが子どもたちと一緒に何とか再浮上しようと死にものぐるいで足掻き続けるズタボロの物語であることに気づかされる。
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