名匠・山田洋次が、監督作82本目で初めて描く“家族の秘密”『小さいおうち』
#映画
今週取り上げる最新映画は、ミステリアスな人間ドラマと、ファンタジックなヒーローアクションの邦画2作品。スタッフ・キャスト共に、日本映画界の多彩さと可能性を伝える充実の2本だ(いずれも公開中)。
『小さいおうち』は、山田洋次監督が中島京子の直木賞受賞のベストセラー小説を映画化。昭和初期、山形から上京してきた娘タキ(黒木華)は、東京郊外に建つ赤い屋根の小さな家で女中として働き始める。玩具会社に勤める主人の平井雅樹(片岡孝太郎)、妻の時子(松たか子)、息子の恭一と共に穏やかな日々を送っていたが、雅樹の部下・板倉(吉岡秀隆)が平井家に出入りするようになってから、時子の心が板倉へと傾いていく。それから60数年がたった平成の時代、晩年のタキ(倍賞千恵子)がノートに記した自叙伝を読んだ親戚の若者・健史(妻夫木聡)は、封印されていた真実を知る。
『男はつらいよ』シリーズなどで家族の絆を描き続けてきた名匠・山田洋次が、監督作82本目で初めて“家族の秘密”に迫った。小さい家の人々の暮らしぶりを通じて、好景気に沸く日中戦争の頃から言論統制と監視社会の第2次世界大戦期までを描き、右傾化する平成のこの時期にメッセージを投げかける時代感覚にもうならされる。『シャニダールの花』(2013)の新進女優・黒木華が、限りなく主演に近い助演で、純朴だが芯の強さを秘めたタキ役を確かな存在感で表現。山田組常連の名優たち、演技派の共演陣らによるぜいたくなアンサンブルも味わい深い。
もう1本の『ヌイグルマーZ』は、『片腕マシンガール』(08)、『電人ザボーガー』(11)の井口昇監督が、中川翔子主演で描く特撮アクションコメディ。地球でテディベアに寄生した宇宙生命体が、自分をブースケと呼ぶ響子(市道真央)を守ること誓う。響子の母・冬子(平岩紙)を頼り、妹の夢子(中川翔子)が居候することになるが、何をやってもダメな夢子をブースケは叱咤激励。やがて謎の組織がゾンビを大量発生させて人類滅亡を企て、魔の手が響子に迫ったとき、夢子とブースケが合体し、全身ピンクのヒーロー「ヌイグルマー」に変身する。
大槻ケンヂが手がけた楽曲「戦え!ヌイグルマー」の詞の世界が本作の起点となり、特異なセンスで特撮映画を更新する奇才・井口監督によって、オタクの夢、ヒーロー愛がたっぷり詰まった映画が実現した。中川が映画初主演を果たし、『デッド寿司』(12)に続いて井口作品登場の若手アクション女優・武田梨奈が、悪役キル・ビリーと変身後のヌイグルマーの二役を熱演。個性豊かなキャストが集い、スタッフらが楽しみながらオリジナリティーあふれる映画を作ろうという姿勢が伝わってきて、ジャンル映画のファンを幸福な気分にしてくれる。特撮ヒーロー物の王道を踏襲しつつ、満たされない者、日陰者へのシンパシーが現代社会へのリンクを提示している点も見逃せない。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『小さいおうち』作品情報
<http://eiga.com/movie/77840/>
『ヌイグルマーZ』作品情報
<http://eiga.com/movie/78606/>
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