まるであの“戦力外通告”……? 野球マニア必読の小説『ヒーローインタビュー』
#本 #プロ野球
新制度の狭間で揺れに揺れたマー君のポスティング移籍問題も実現の方向でひとまず落ち着き、ストーブリーグも一段落。これからキャンプインまでの数週間は、熱心なファンを含めたプロ野球界全体に、束の間の「オフ」が訪れる。
野球関連の話題がめっきり少なくなる、そんな「オフ」にこそ、ぜひとも読んでほしい激アツな一冊が、今回ご紹介する単行本『ヒーローインタビュー』(角川春樹事務所)。2000年のドラフト8位で阪神に入団した仁藤全なる無名の2軍選手を主人公にした、77年生まれの若き女性作家・坂井希久子氏の手による入魂の一冊だ。
まずもって、高校通算42本塁打の逸材でありながら、最後の夏を前にした“ある出来事”のせいでドラフトでは下位指名に甘んじたという主人公の持つバックボーンが絶妙だし、1軍の試合にはたった171試合しか出ていないのに、なぜか10年間も在籍していたなどというワケあり感もまた、野球好きにはグッとくる。
野球選手としては一度もお立ち台に上がることのなかったガッツリ二流な彼の軌跡を、本人がひそかに好意を寄せる理髪店の女性店主、担当スカウト、同じチームの若きエース、ライバル球団のベテラン左腕(モデルはあの山本昌!)、高校の同級生などなど本人以外の関係者たちへの“インタビュー”を元にたどっていく……となれば、ヒガシのナレーションでおなじみの『プロ野球戦力外通告』(TBS系)のような番組が大好物な人にとっては、まさしくドストライクといっても過言ではないだろう。
阪神のホームタウンである、兵庫県の西宮・尼崎周辺を舞台にしているだけに、登場人物のほとんどがコッテコテの関西弁なのは、多少読む人を選ぶきらいはあるも、たとえ“虎キチ”でなくとも、野球の面白さを多少なりとも分かってさえいれば、楽しめることは請け合い。たったひとつのプレーで球場全体をひとつにしてしまうほどの、野球ならではのあの“感動”を一度でも味わったことがある人なら、クライマックスに待つ“奇跡”には思わずゾクゾクしてしまうに違いない。
というわけで、この冬は、1球団70人という支配下登録枠の上限によって、有名・無名を問わず毎年100人近い選手たちがユニフォームを脱ぐことになるプロ野球の厳しき現実……その大多数を占める無名選手の、ニュースの活字にすればわずか数行でコト足りてしまう儚い野球人生に思いを馳せつつ、二流の“ヒーロー”が織り成す人間ドラマにどっぷり浸かってみることをオススメしたい。
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