「速いだけでなく、強いチームを!」鬼監督・大八木弘明がつくり出した駒大陸上部の黄金時代
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ある時は、視聴者から「監督がうるさい」とクレームがくるほど、大八木は声が枯れるまで選手たちに檄を飛ばす。その熱量に促され、選手たちも自らの体力の限界を超えた走りをすることができるのだ。大八木の下でコーチを務める高橋正二は、その育成方法についてこう証言する。
「(大八木監督は)練習の中でつかみ取る気迫を鍛錬することが第一義であると語っているように思います。集団走で離れたら、離れっぱなしで終わらせるな、必ず追いつけと、指示を出す。そうした我慢強さ、挑戦心を選手に持てと言うのですね」
大八木は、地味で粘り強く走る「泥臭い走り」が好きだと明言している。彼の理想は「速いだけでなく、強いチームを!」だ。駅伝はゴールまでの速さを競う競技であると同時に、チーム対チーム、人間対人間の勝負でもある。選手たちの「気迫」や「我慢強さ」を鍛え上げることで、駅伝という「競技」で勝てるチームを育て上げているのだ。
しかし、大学の運動部である以上、選手たちは純粋なアスリートではない。駅伝の指導者でありながら教育者でもある大八木は、08年の箱根駅伝に優勝した喜びの中、自身の仕事をこう語った。
「心から感動したことが、走ることをやめたのちも、常に生きていく支えになっていく。その瞬間を選手ひとりひとりに知ってもらいたい。それが私の願いだし、鬼になる理由です。1位になった栄誉とか、大学の名誉とかいうのは一瞬ですが、全員で笑い合って感動したという思い出は一生忘れません」
この正月も、箱根の山に鬼監督・大八木の声がこだまする。そして、その声に力をもらった駒大選手たちは、過酷な箱根への道を走り抜けていくだろう。レース中に聞こえる大八木の怒号は、選手にとって、その後の人生を支える希望としても響いてゆくだろう。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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