トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 社会  > 尼崎連続変死事件の真相に迫る
凶悪犯罪の真相

「尼崎には、同じようなんはなんぼでもおる……」尼崎連続変死事件・角田美代子が求めた“家族”の姿

 この事件を追っていく過程で、著者の小野が見たものは、「家族」という共同体に対する角田美代子の特別な視線だ。

 「今回のことは、全部お母ちゃんが悪いから、責任を取る」という遺書を残して美代子は自殺した。ちょうどその頃、美代子の戸籍上の妹であり、彼女を右腕として支えてきた三枝子が自供を開始する。事件が発覚したことではなく「信じていた家族」に裏切られたことが、美代子自殺の引き金になったと小野は考える。

 「角田ファミリー」を構成する人間に、血のつながりはなく、あくまでも彼らは擬似家族にすぎない。美代子は、ファミリーに対して血のつながり以上に深い「家族」の姿を求めた。そして、それが血縁以上に強いものであることを示すためであるかのように、ほかの家族を瓦解させていく。拘置所で同房になった女性は、「ファミリー」を失った美代子の姿をこう証言する。

「オカン(美代子)は横柄でわがままなんですけど、寂しがり屋でもあるんです。急に私の手を握ってきて、私が外そうとすると『いやっ。ギュッとしかえして』と言ったり、喫煙所から部屋に帰るときに、私が『オカン、先に出て』って言うと、『そんな寂しいこと、先行ってなんか言わんといて』と、小さな声で訴えてました」

 では、どうして美代子は、ほかの家族を奪ってまで、この擬似家族を必要としたのか? それは、尼崎という街で生き抜いていくための知恵であったかもしれないし、親の愛情に飢えた幼少期の反動なのかもしれない。いずれにしろ、当人が死んでしまった以上、それらは臆測の域を出ることはない。

 美代子は死に、大勢の関係者は捕まった。しかし、小野の取材によれば、まだ美代子の周辺には行方不明者が少なくなく、今後も新たな事件が発覚する可能性も考えられる。

 事件報道が一段落した尼崎のスナックで、小野は旧知のママからこう語られた。「角田ファミリーだけおらんようになったからって、なんも変わらんのやって。仲間だって残っとるし、同じようなんはなんぼでもおるんやから……」。一時の盛り上がりがなかったかのように、すっかりと報道は沈静化した。しかし、「同じようなもん」たちは、まだ尼崎に存在し続けている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

●おの・かずみつ
1966年生。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。尼崎連続変死事件では100日以上にわたり現地に滞在し取材。著作に『完全犯罪捜査マニュアル』(太田出版)、『東京二重生活』(集英社)、『風俗ライター、戦場へ行く』(講談社文庫)、『灼熱のイラク戦場日記』(講談社電子文庫)など。

最終更新:2014/05/08 13:17
12
ページ上部へ戻る

配給映画