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映画以上に映画宣伝が面白かった時代があった! 宣伝マンの過剰な情熱『映画宣伝ミラクルワールド』

rambo__.jpg“伝説の映画デザイナー”檜垣紀六氏が手掛けた『ランボー』の宣伝ビジュアルはレーザーディスクのジャケにも使われた。

 東宝東和が考えた邦題がハリウッドに逆輸入された有名例がシルヴェスター・スタローン主演の『ランボー』(82)。原題は『First Blood』だったが、よりインパクトのあるネーミングを求めた結果、主人公の名前ランボーがそのまま邦題となった。ベトナム戦争の帰還兵ランボー=乱暴もの、という語呂の良さから日本人の耳に馴染み、スマッシュヒットに。スタローンから感謝状が届き、シリーズ2作目からは『Rambo』が米国でも正式タイトルとなった。ちなみに『ランボー』の日本版ポスターでスタローンが機関銃を構えているカットは本編には登場しない。銃を持っているのは、デザイナー檜垣氏の腕である。しかも背景となっている夕焼け空は、東宝東和の社員旅行で熱海に繰り出した際に撮ったものらしい。当時の洋画宣伝の現場がノリノリで創造性に富んでいたことがうかがえるエピソードだ。

 いかにイケイケだった東宝東和とはいえ、当然ながら空振りに終わった作品も少なくない。その代表例が後にカルト的ホラー映画としてリメイクされることになる『サランドラ』(77=日本公開は84)。劇中にほんの一瞬だけ軍用ナイフが映ることから、そのナイフを勝手にジョギリと命名し、“全米が震え上がった! これが噂のジョギリ・ショックだ!”なるコピーが付けられた。日本版ポスターには宣伝スタッフが買ってきた巨大ナイフが使われた。ジョギリ・ショックなる謎の言葉に釣られて劇場に足を運んだ観客は殺人鬼がジョギリを使って殺戮を繰り広げるシーンを期待したものの、本編にはジョギリの出番はまるでなし。劇場に飾られていた木製ジョギリは初日のうちに観客にへし折られ、興行結果も散々な結果に。いくら過剰に宣伝を仕掛けても、作品内容と掛け離れていると観客の怒りを買うという見本となった。

 やがて80年代半ばに入ると、家庭用ビデオデッキが普及し、映画マーケットも大きく変貌していく。微妙な作品、眉唾っぽい作品は劇場公開後にビデオ化されてから観ればいいという選択肢を観客は持つようになる。アドバダイジング(広告製作)に力を注いでいた東宝東和の宣伝スタイルは、次第にパブリシティー(新聞や雑誌への露出)中心に比重を変えざるを得なくなっていく。ハッタリやこけおどしが通用する時代ではなくなったのだ。同時に、若い映画ファンの「今度は騙されないよな?」とドキドキしながら映画館に向かう楽しみも消失していく。香具師の巧みな口上に乗せられて、つい財布を開けてしまっていた高揚感も映画館からなくなったように思う。

 当時の映画ファンは映画本編とは別に、ユニークな邦題やインパクトのあるポスターから勝手に想像した妄想映画を自分の脳内で上映して楽しんでいたのではないだろうか。新聞広告やポスターを見てから映画館に入るまでの時間が無性にワクワクしていたことが思い出される。映画宣伝マンたちの過剰な情熱こそが映画ファンの心を掻き立て、数々のヒット作を生み出していたのだ。当時の東宝東和なら、『007は二度死ぬ』(67)を上回る怪作『47RONIN』も、おもしろおかしく宣伝展開していただろうになぁとわびしく感じる。

最終更新:2013/12/18 15:30
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