ティーンエイジ窃盗団のいつかキラキラする日!? ソフィア・コッポラ監督作『ブリングリング』
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デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(99)から、東京を舞台にした『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、ガーリーな視点で描いた歴史もの『マリー・アントワネット』(06)、自伝的要素の強い『SOMEWHERE』(10)と一貫して鳥籠の中でしか生きられないカナリアの憂いを描いてきたソフィア・コッポラ監督。父親であるフランシス・フォード・コッポラ監督は油絵でどっしりした人物描写する感があるが、セレブ育ちのソフィア・コッポラ監督はパステル画タッチの繊細な小品が得意。だが、ワイドショーを賑わした事件を題材にした今回はちょっと趣きが異なる。英国女優エマ・ワトソン以外は無名の若手俳優をキャスティングしている本作は、淡いパステル画というよりはガチャガチャしたグラフィックアートを思わせる。キラキラ窃盗団があまりにもペラペラすぎるからだろう。感情移入する余地がない。主人公のモデルとなった彼らが即物的なら、本作もまた非常に表層的で即物的な作品に仕上がっている。
本作には実録犯罪ドラマの必須要素である犯罪者のドロドロとした情念はどこにもなく、被害者側の肉体的および精神的な苦痛が描かれることもない。犯罪者に罪の意識はほとんどなく、また被害にあったパリス・ヒルトンに至っては犯行現場となった自宅をロケ場所として提供している。犯行に及んだ主人公たちが自分たちなりのケリをつけるカタルシスも本作には存在しない。この空虚さ、空っぽさ加減は一体なんだろうか? ソフィア・コッポラ監督が本作で描きたかったことは、多分この空っぽさそのものなんだろう。
キラキラと輝いて見えるけど、その中身はまるで空っぽ。それが『ブリングリング』で描かれる世界の正体だ。本作の公開をいちばん喜んでいるのは、キラキラ窃盗団のメンバーとパリス・ヒルトンら事件の当事者たちに違いない。
(文=長野辰次)
『ブリングリング』
原作/ナンシー・ジョー・セールズ 脚本・監督/ソフィア・コッポラ 撮影/ハリス・サヴィデス、クリストファー・ブローヴェルト 出演/エマ・ワトソン、ケイティ・チャン、クレア・ジュリアン、イズラエル・ブルサール、タイッサ・ファーミガ、レスリー・マン 配給/アークエンタテインメント、東北新社 +R15 12月14日(土)より渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー (c)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved
<http://blingring.jp>
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