なぜ、美しく改良すると”叩かれる”のか? 芸能人と美容整形 美の追求の倫理学
#芸能 #整形
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発売中のサイゾー12月号の第二特集記事は『芸能人と整形の倫理学』。整形をカミングアウトする芸能人なども増えていますが、まだまだ芸能界のブラックボックスとして扱われている美容整形の賛否や正当性を考察しつつ、倫理学、社会学、歴史学的な見地で「整形」のタブーに挑みます!
■今回のピックアップ記事
『なぜ、美しく改良すると”叩かれる”のか? 芸能人と美容整形 美の追求の倫理学』(2013年12月号特集『芸能人と整形の倫理学』より)
――芸能人の告白や疑惑、大手美容外科の宣伝を通して、我々の日常でもその存在を認識する機会が増えてきた”美容整形”。それを「外見を改良し、美しくする手術」ととらえる向きもいるだろうが、その裏側には、生命倫理や人種差別に関わる問題などもはらんでいる。本特集では、「なぜ芸能人の美容整形が”叩かれる”のか」「美を追求するために、親から授かった身体にメスを入れることは罪なのか」ということを根底に、美容整形を倫理的にとらえ、整形大国韓国の実情、芸能プロ関係者の本音を浮き彫りにしたい。
少しでも顔が変わった芸能人は”整形か!? “とネットで騒がれる昨今。こうした”疑惑”が囁かれる芸能人は沈黙を貫くことがほとんどだが、一方で、「メスを使わない手術はしたことがある」(グラビアアイドル・森下悠里)、「(鼻を指さして)イジりました」(モデル・小森純)など、ごく一部、その事実を認める発言をする芸能人もいるにはいる。また、新旧問わずメディアでは、大手美容外科の広告が増加。いつからか「プチ整形」という言葉が社会に広まり、美容整形は一般の人にも身近な話題となりつつある。
しかし、今現在も「芸能人と整形」をはじめとした美容整形の話題は、基本的にタブー視されることが多い。また、美容整形という文化の背後には、カネと権力といった芸能界ではおなじみの話題のほか、一般には報じられない業界団体の対立や、生命倫理、人種差別に関わる問題までもが横たわっているのだ。
まず本稿では、美容整形の歴史を遡りながら、それらの問題について考察してみよう。
美容整形の起源については諸説あるが、『美容整形と〈普通のわたし〉』(青弓社)の著者であり、松蔭大学の川添裕子教授によると、「外見への医療的介入は、紀元前1500年前のインドではすでに行われていた」という。
「その頃のインドでは、切断された鼻を再建する手術が行われていたようです。その背景として、鼻をそぎ落とす刑罰の存在が指摘されています。このインド式の造鼻術は、形を変えながら現代に伝わっていると考えられています」(川添氏)
なおその刑罰は、姦通の罪を犯した女性などを対象に行われていた。アメリカ美容整形ビジネスの光と影を追った書籍『ビューティ・ジャンキー』(アレックス・クチンスキー著・バジリコ)でも「顔を傷つけるのは明らかに社会による拷問だ。罪人に、ひと目見ただけでその人の罪がわかるような顔で生涯を送らせたのである」(同書P92)との言及がある。
そして美容整形という概念が明確になったのは15~16世紀のヨーロッパで、鼻の再建手術などが行われていたが、その当時のヨーロッパでは、不完全な鼻は特別な意味を持っていた。先の『ビューティ・ジャンキー』によると、欠損した鼻や病気などで変形した鼻は、売春婦や敗者の印であるとされ、当時の戦中、戦死した兵士は死してなお、鼻を切り落とされ屈辱を与えられたという。また、「鼻柱が陥没した鞍鼻といわれる鼻は、梅毒によって軟骨が侵された結果であり、こういう鼻は不健康で堕落した、社会の嫌われ者という立場にあることを示していた」(同書P93~94)のだ。
逆にいえば、整形で鼻の再建手術を行うことは、その人の社会性を取り戻す意味合いもあった整形手術は、その歴史の始まりから社会的に再認知されるという行為でもあったのだ。
■形成外科を進化させた戦争による倫理観の変貌
一方で、倫理的な側面からは、そのような手術への風当たりは当時より強かった。
「中世ヨーロッパキリスト教社会では、再建手術であっても、”神の業への干渉”とみなされました。また当時、外科的処置は理髪師らによっても行われていて、外科全般の社会的な地位が低かったという面もあります。さらに麻酔や無菌手術が不十分だったので、整形に限らず手術自体が生きるか死ぬかという究極の選択でした」(川添氏)
現在の日本でいわれるところの整形に対する倫理観と同義に思えるが、その後、麻酔術や消毒法などの技術が発達。さらにキリスト社会が世俗化する中で、身体観も変化する。
「近代ヨーロッパ社会では、人の身体は『わたしが持っているもの』であり、『自然は科学によってコントロールできる』『身体は〈個人〉の思い通りになる』という考え方が生まれます。身体への医療的介入も神への冒涜とは考えられなくなり、現代的な美容整形を受け入れる土壌が出来上がったわけです。そして19世紀後半のドイツでは、鼻の美容整形も行われています」(川添氏)
しかし、形成外科の技術を美容へと転用しようとする医師への風当たりは強かった。
「患者をより美しくするため、あるいは老化をなんとかしてごまかすために医学という立派な専門的職業を利用するという考えは、見栄や虚飾を認めないピューリタン的道徳と真っ向から対立した」(『ビューティ・ジャンキー』P97)というのが当時の実情だったようだ。
そんな状況を変化させ、また形成外科の技術を急速に発展させるきっかけになったのは戦争だった。
「第一次大戦、第二次世界大戦などの近代戦では、兵士が被る顔の損傷も凄まじいものになり、その数も膨大になりました。そのような負傷兵たちの治療が求められた戦争は、皮肉にも形成外科医たちの実践トレーニングの場にもなっていたのです。従軍医師がさまざまな症例に当たる中で、外見の治療の技術は大きく発展し、のちの美容整形に役立てられていきました」(川添氏)
この影響もあったのか、第二次大戦後の1950年代中頃、広島で原爆によるやけどを負った被爆者が再建外科治療のためにアメリカに運ばれた際には、それまで欧米諸国で取り沙汰された「整形手術はモラルに反する」という主張が問題にされなかったという。
「訪米したのは全員女性で、『ヒロシマの乙女』と呼ばれた。彼女たちは皆若く(19~24歳)、やけどの痕は見るに無残であったため、全米の注目を浴びた。何度かの手術を経て大衆の前に現れた彼女たちは驚くほど美しくなっており、それをきっかけに美容外科が持つ素晴らしい復元力に関する議論が噴出した」(『ビューティ・ジャンキー』P107)
ここまで駆け足で美容整形の歴史を見てきたが、美容整形の技術は「美貌」を目指して生まれたのではなく、再建手術という「修復」を目的に発展してきたものだった。それが美貌を目指すものとして正当化されたのは、アドラー心理学の影響が大きいと川添氏は話す。
「美容整形に大きな影響を及ぼしたのは、アルフレッド・アドラーの『劣等コンプレックス』の概念です。アドラーは、劣等感は人間なら皆あるとして、『優越に向かう努力を刺激するものとして役立つ』と考えました。歴史学者のエリザベス・ハイケンは『プラスチック・ビューティー』(平凡社)の中で、1920年代から30年代にかけて心理学が流行するようになったアメリカで、アドラーの心理学、特に劣等感が一般の人々の心を掴んだことを指摘しています。そしてコンプレックスは『解消すべきもの』として浸透していきました」(川添氏)
こうした経緯を踏まえ、美容整形は倫理的に正当なものと認識されやすくなり、手術を希望する人も実際に増えていったという。
「それまでは無視されてきた『外見』の要素が医学に取り入れられ、外見の手術は『メスによる精神分析』と語られるようになりました。美容整形を受け、コンプレックスを払拭することで心の状態が回復する、患者の福利に寄与できる……ということです」(川添氏)
このように、身体のみならず心の問題にも関わるのが、医療における美容整形の特異さだ。医療ジャーナリストの大竹奉一氏は、「美容整形が一般医療以上にクレームが多くなる理由のひとつも、そこにある」と話す。
「一般医療は、病気や痛みに苦しむ人を健康な状態にすることが目標。つまり、マイナスからゼロの状態を目指すのが治療のプロセスです。一方で美容整形を希望する人は、身体の状態としては病気ではなく痛みもない。それでも鼻を高くしたり、二重まぶたにしたりと、希望に応じて手術をするわけで、それは『ゼロからプラスへ』のプロセスなわけです。そして、そのプラス度を判断するのは患者の主観のため、手術自体が成功しても患者が満足しない場合があり、クレームへと発展するんです」(大竹氏)
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