「大抵のテレビ番組が嫌い」テレビ東京“鬼才”ディレクターから見た“やらせ問題”とは
#テレビ #インタビュー
高橋 「やらせ」の定義は、辞書的にいうと「制作者が出演者にお願いして何かをやってもらうこと」ですよね。でも、出演者に何かをお願いしてやってもらうことが、必ずしもやらせになるわけではないと思っています。
もちろん、存在しない事実をでっち上げるのはダメです。例えば、普段は行列ができないラーメン屋さんなのに行列があるように見せる、というのは絶対ダメですよね。でも、真実を伝えるという目的のために、ディレクターが努力することは必要だと思うんです。
例えば、この本でも書きましたけど、ペルーのスラム街を取材したときの話です。そこで周りの人たちに現金収入を得られるように頑張って編み物を教えているおばあさんがいて、みんなからすごく感謝されていたんですよね。その「感謝されている」ということは、真実なんですよ。でも、ディレクターは1年ずっとその人に張り付いてるわけにはいかないので、何もしなかったら1年に1回しかないような感動的なシーンを撮れないんです。
そこで、母の日にお祝いのイベントがあるというのを聞いて、「じゃあ感謝の手紙を書いてみたら?」と提案したんです。そしたら、その人が本当にいい手紙を書いてきたんですよね。その結果、普通にインタビューするだけじゃ、引き出せない感情とかが吐露されたんです。
僕は、それが真実だと思うんです。真実を伝えるためにディレクターがそういう環境に持っていく、ということは、どんどんやるべきだと思います。それをやらないなら、ディレクターなんて必要ないですよね。誰が撮っても同じになるわけですし。それは、演出だと僕は思います。
――今のテレビを取り巻く状況をどう思いますか?
高橋 テレビ業界を目指す若い人が減ってるのは、事実ですよね。なんで減っちゃったかというと、インターネットとかいろいろな娯楽が出てきたから、相対的に減ったというのはあるかもしれないけど……。いまテレビにあんまり信憑性がないですよね。ネットのおかげで、テレビがウソついてたこともある、というのがどんどん露見してますから。
――バレやすくなってるんですね。
高橋 それは真摯に受け止めなきゃいけないと思うんです。そういうことがあるから、テレビなんてうさん臭いし面白くない、とていう空気が世の中に蔓延しちゃってる感じはあるんですよね。ただ、そういうことをやっちゃうのは、本当にごくごく一部の、2~3%ぐらいの人なんですよ。僕が知ってるテレビのディレクターの97~98%ぐらいは、やっぱりかなり真摯に、真面目に番組を作ってますね。でも、そうじゃない2~3%の人の印象が強くて、テレビを志望してくれる人が減ってるのかなという気はしますね。
テレビの仕事は面白いです。自分が興味のあることを調べて、現場に行って取材して、それを視聴者の皆さんにお届けする。こんな楽しい仕事はないなって思うんですけど、ほんのちょっとのネガティブな情報のせいで、テレビ業界を目指す人が減るのはもったいないなあと思いますね。だからこの本を通じて、テレビ作りの楽しさを知ってほしいです。
(取材・文=ラリー遠田)
●たかはし・ひろき
テレビ東京制作局プロデューサー・ディレクター。1981年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。05年テレビ東京入社。『TVチャンピオン』『新説!?日本ミステリー』『決着!歴史ミステリー』『ザ・ドキュメンタリー』『空から日本を見てみよう』などのディレクターを経て、『ジョージ・ポットマンの平成史』のプロデューサー・演出を担当。現在『空から日本を見てみようPLUS』プロデュ―サー、『世界ナゼそこに?日本人』ディレクター。著書に『ジョージ・ポットマンの平成史』(伊藤正宏との共著、大和書房)がある。
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