病み系の次はぐうたら娘! “映画女優”前田敦子の新境地『もらとりあむタマ子』
#映画 #前田敦子
今週取り上げる新作映画は、若き日の心のありようと成長の過程をユーモラスに、またフレッシュに描いた邦画と洋画の2本。登場人物が体験する日常やハプニングは、今まさに青春進行中の若者世代と青春の日々を懐かしむ世代、両方に広く共感を呼びそうだ。
『もらとりあむタマ子』(11月23日公開)は、元AKB48の前田敦子がダメダメなぐうたら女子を演じ、女優としての新境地を切り拓いたドラマ。東京の大学を出たものの就職せず、甲府の実家に戻ってきた23歳のタマ子(前田)。スポーツ店を営み、妻と離婚した父・善次(康すおん)に食事の支度も洗濯もさせ、食う、寝る、テレビ、漫画の自堕落な毎日を過ごす。それでも季節はめぐり、タマ子にも少しずつ変化が訪れる。
監督は、『苦役列車』(12)でも前田とタッグを組んだ山下敦弘。『リアリズムの宿』(03)や『リンダ リンダ リンダ』(05)など、社会や周囲に馴染めない若者が自分なりに生き方を模索する姿を優しいまなざしで捉えてきたが、そうしたスタンスは本作でも貫かれている。テレビを見て「ダメだな、日本は」と毒づくタマ子と、「ダメなのはお前だ!」と返す父の掛け合いが楽しい。人生のモラトリアム=猶予期間に、ささやかなきっかけを得て前に進もうとする主人公を見守るうち、自然と「自分も、もうちょっと頑張ってみようかな」という気持ちになるはず。
『ウォールフラワー』(公開中)は、『ライ麦畑でつかまえて』の再来と絶賛されたベストセラー小説を、原作者のスティーブン・チョボスキーが自ら監督・脚本を手がけて映画化した青春ドラマ。16歳で小説家志望のチャーリー(ローガン・ラーマン)は、高校入学と同時にスクールカースト最下層に位置付けられてしまう。友達もなく、壁の花=ウォールフラワーのように片隅で孤独に毎日をやり過ごしていたが、陽気な問題児パトリック(エズラ・ミラー)とその義妹で美しく奔放なサム(エマ・ワトソン)に出会い、高校生活が一気に好転。チャーリーは初めて友情や恋を知るが、仲間内のトラブルと過去のつらい思い出を機に、暗い影が3人に忍び寄る。
『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニーがすっかり大人っぽくなっちゃって、と思わず親戚気分になるほど、エマ・ワトソンも青春映画が似合う年頃になった。こんな子が仲良くしてくれたらどんな男子でも恋に落ちるよね、と納得のキラキラした魅力。『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(11)のラーマン、『少年は残酷な弓を射る』(11)のミラーとの相性もバッチリだ。時代設定の90年代に人気を博した英国バンド、ザ・スミスのナイーブだが気高く美しい楽曲が、登場人物らの心情に寄り添うように流れる。同じくスクールカーストを扱った『桐島、部活やめるってよ』(12)とは、外れ者の文系オタクが他者の観察と創作を通じて成長していく姿を描いた点でも共通しており、見比べるのも一興だろう。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『もらとりあむタマ子』作品情報
<http://eiga.com/movie/79100/>
『ウォールフラワー』作品情報
<http://eiga.com/movie/77670/>
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