格闘ゲーム世界一の男が見る世界の風景とは? ウメハラが『勝負論 ウメハラの流儀』に込めたメッセージ
#インタビュー
──プロゲーマーの日常は、どんな毎日なんでしょうか?
梅原 人それぞれだと思います。プロといっても、それだけで食べているわけじゃない人もいますし。自分の場合は、ジムに行ったり、一日10時間くらいひたすらゲームの練習をしています。そのゲームに関しても、いろんなゲームをやるプロもいますが、自分は一つのゲームをやり込んで、見た人が驚くプレーをすることを一番に心がけています。
──勝つことではなく、ギャラリーを驚かせたい?
梅原 もちろん、勝ち負けを度外視してプレーすることはないですよ。ただ、ゲームというのは人間が作るものなので、たまにすごく簡単に勝つことができるキャラクターや戦法が見つかる場合があるんです。でも、それが非常に効率的だからといって、そういう戦い方をして連勝したり大会で優勝したとしたら、見ている側としては「プロがやっても結局同じなんだ。だからこのゲームはつまらないから、やらなくていいよね」って結論になると思うんですよね。そうなると、ゲームがどんどん売れなくなって、周辺機器も売れなくなる。僕についてくれてるスポンサーってゲームの周辺機器を作ってる会社なので、そうなったら結局困るのは自分じゃないですか? だからもちろん全力で勝ちにいくんですけど、これはやっちゃいけないとか、このキャラを使っちゃいけないというルールは自分の中に明確に持っています。自分の中にそういった制限をつけながら、それでも勝つことをあきらめないでプレーしていると、自然と周りが驚くプレーになるんです。こんなキャラで勝てるんだっていうことがまず驚きだし、みんなが知らないような戦略を考え付いて実践できるからこそ、誰もが思いもよらなかった勝率を出せたりするわけです。だから自分が驚かせたい、というのはそういうことです。例えば、アマチュアの賞金稼ぎならみんながシラケちゃうプレーをするのも、百歩譲ってありだとは思うんですけど。ただ、それも長い目で見ると、自分自身にとってはマイナスだと思います。
──プロだからこそ、誰もが気づかなかった価値を提示してみせると。
梅原 そうですね。こういうふうにやるともっと面白いよ、という勝負を見せていくということが大事なのかなって。やっぱり、当たり前の結論には誰も感動しないですからね。一番強いって思われているキャラで、一番強いと思われている戦法を使って勝っても、それはそうだよねとしか思われないですからね。
──梅原さんの戦いぶりや試合を見ていると、しばしば昭和プロレスに通じるドラマ性を感じてしまうんですが、その理由は、梅原さんの勝負に向き合うその姿勢にあるのかもしれませんね。
梅原 ただ、それでも勝てなきゃ相手にされない世界なので、難しいことを要求される世界だと自分では思っています。なんでもありだとシラケちゃう。だから、何をやっても勝つっていう人の何倍も練習しないといけないんですよね。でもそれは企業にスポンサーについてもらってやらせていただいている以上、当然の義務だと思っています。
──ゲームをやっていてうれしかったと感じるファンの感想とは、どんなものですか?
梅原 「こんなキャラでも頑張ればこう戦えるんだ。じゃあ俺も仕事を頑張ろう」とか「俺もあきらめかけていたことを一からやり直してみようかな」といった感想ですね。「そうそう! そういうメッセージを俺は伝えたいんだよ!」って。当たり前の結論に負けない姿を、ゲームを通して見せていきたいと思っているので。
うちの姉が、何かと要領のいい人だったんですよね。それを見た時に、要領の悪い自分が普通に生きてたら、こういう人には絶対に勝てないっていうのが子どもながら直感的に分かったんです。その後、ゲームなり麻雀で努力していくわけだけど、その間も子どもの頃に感じた「俺は要領が悪い」という意識がずっと残っているんです。格闘ゲームの世界チャンピオンになっても、要領の悪さは変わりません。だから、自分は要領が悪いってあきらめている人も、本当はあきらめる必要はないと思います。確かに生まれつき、要領の良し悪しの差はあるんだけど、自分のペースで頑張り続ければ「ここに関しては、あいつに負けねえ」っていうものが持てるということをみんなに知ってもらいたいです。みんなが努力しても、当然勝者と敗者が生まれます。じゃあ努力しても成果を出せなかった人は、次から努力しても無駄ということなのかというと、そうではないと思います。敗者に楽しむ権利はないとは思わないし、いつまでも負けっぱなしでもないと思います。
──すごく勇気をもらえる力強い言葉です!
梅原 だから、この本は要領のいい人は読まなくてもいいかなと思います。あと、プロゲーマーを目指している人にも、特に言うことはありません(笑)。ただ、それ以外にこの本を読んでみようかなという人がいるんだったら、さっき言ったように、何事もあきらめる必要はないんだよ、ということを伝えたいです。自分のペースでいいから成長を実感できてれば、少しずつでも努力していくことが楽しくなってくるし、結果として自分に自信がついて、人付き合いも堂々とできるようになるので、いいことずくめだと思いますよ。
(取材・文=有田シュン)
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