「俺とラブしてくれませんか?」醜悪な欲望が絡み合う『天国の恋』の情念
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「そんなのおかしいよ!」と納得がいかない友也に、「あっははははは!」と突然笑い出す婦長。
「急にこんなこと言われて友也ちゃんはびっくりするでしょうけど、でも斎ちゃん、あなたは違うわよね。あなたは女だし、もう大人だからだいたいのことは分かるわよね。私と医院長は愛し合って、その結果あなたたちが生まれたの。それで清水のご両親に預けたの。だから、あちらはただの養父母。本当の両親じゃないの。ただの育ての親なの」
なおも「そんなのデタラメだ!」と食い下がる友也に婦長は態度を急変、激昂する。友也が何も言えなくなると、またすぐ声色を変えて「一度でいいから母親らしく叱ってみたかった」と泣き出すのだ。
たったひとつのシーンで、ここまで感情がめまぐるしく変わっていく婦長。情緒不安定というより、そこにあるのは情念だけだ。
程なくして、育ての母、父に続いて弟の友也までも交通事故で亡くしてしまう斎。そんな暗い過去を背負って成長した斎を、夫の母(丘みつ子)は「“死神”みたいな女」と毛嫌いし、斎の娘の美亜(大出菜々子)に彼女の悪口を吹き込んでいる。「一生ナマ殺しにしてやる」と離婚を許さない夫に対し、斎は別離を決意。やむを得ず娘を置いて、再び医院長の家に舞い戻った。
そして、あの万引き青年と再会。「抱いて」と身を預けるのだった。
奇妙奇天烈、阿鼻叫喚。このドラマに出てくる人物は、例外なく欲望と感情むき出しだ。しかも、そのほとんどが醜悪だ。情念と情念がぶつかり合い、また情念が生まれる。そんな醜悪な情念はなぜか中毒性があって、目を背けたいのに目を離すことができない。中島作品は秘められた欲望をあぶり出し、それを過剰に見せつける。それを真っ昼間に見る背徳感とある種の肯定感は、何物にも代えがたい。同ドラマのプロデューサーが「昼ドラは大人のテーマパーク」と言う通り、その情念の波に溺れる快感は、抗うのが難しい昼ドラの耽美な快楽なのだ。
ちなみにこの作品のタイトルバックの演出は、なぜか石田純一である。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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