屠場は本当に美しかった! 今夜は焼き肉にしたくなる、ドキュメンタリー『ある精肉店のはなし』
#映画
冒頭、描かれるのは屠場へと引かれていく牛の姿。住宅地の道を牛は引かれていく。そして、やってきた屠場は昭和の香りのする古ぼけた建物だ。オートメーション化された近代的な工場スタイルではない。建物の中へ引かれていった牛は、頭にハンマーの一撃を食らって倒れる。まだ、ピクピクと動いている牛は手作業で手際よく解体されていく。そして、枝肉になった牛は軽トラックで運ばれる。肉はブロック肉にして、薄切りやさまざまな形で店先に。ホルモンは油かすになり、皮は太鼓の材料へと、文字通り余すことなく使われていく。画面に映し出される店頭に並ぶおいしそうな肉、そして新鮮なホルモンを見て、観客はみな思うだろう「晩ご飯は、肉にしよう」と。
今年、山形国際ドキュメンタリー映画祭や釜山国際映画祭での先行上映で激賞された『ある精肉店のはなし』。これが2作目となる纐纈(はなぶさ)あや監督が被写体にしたのは、大阪府貝塚市にある北出精肉店だ。
この精肉店を営む北出家は江戸時代末期から屠畜・食肉の仕事に携わってきた一家で、現在の店主・新司さんで7代目になる。新司さんの父・静雄さんの代からは市場で牛を買い付け、屠畜して卸業を営むことを始めた(のちに小売りも始める)。そして、昨年まで店舗兼自宅に隣接した牛舎で牛を飼い、育った牛を肉にして販売する、文字通りの産直販売を行ってきた。
映画は、北出精肉店しか利用する業者がなくなり閉鎖されることになった貝塚市の屠場での最後の作業を軸に、一家の姿を追いかけていくという1年を越える取材の末に出来上がった作品だ。
少なくとも、現代の日本で牛肉を好まない人はそうそういない。私見だが、肉ほどテンションの上がる食べ物はない。筆者も何か大きな原稿を書き上げた時には肉と決めている。それに、焼き肉をワイワイしながら食べるのは至上の快楽である。
なぜに、こんなに肉は人の心を昂ぶらせ、パワーを与えてくれるのか。この映画を見て腑に落ちた。それは、丸々とおいしそうに育った肉牛の命をいただいているからだ。その命を直接受け止めているからだろうか、作品中に映し出される北出精肉店の家族は、誰もが命がみなぎった美しさを宿している。
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