英会話講師殺害事件、茨城上申書殺人事件……“実録犯罪映画”が続々公開される、その舞台裏は?
#映画
■ヒットの要因は、リリー・フランキーが凶悪犯を演じた意外性
『凶悪』の白石和彌監督も若松監督の薫陶を受けた新進気鋭の監督。日活が製作・配給する『凶悪』は山田孝之、リリー・フランキー、ピエール瀧という異色の顔合わせが実現した話題性もあり、9月に公開されて以降、ロングラン興行を続けている。日活の宣伝プロデューサーであり、『凶悪』の宣伝統括である大場渉太氏は、ヒットの内情についてこう語る。
大場 「日活が製作・配給した園監督の『冷たい熱帯魚』『恋の罪』は興収1億円台のヒット作となりましたが、『凶悪』はこれからのムーブオーバー次第では2億円に届きそうな気配です。都内のシネコンでの上映は10月いっぱいで終わりましたが、11月からはテアトル新宿で上映されています。『凶悪』は50スクリーンで始める予定が、各地の劇場からの問い合わせが多く、約100スクリーンにまで膨らみました。この規模の作品では十分なヒット作です。意外だったのは、この手の実録犯罪ものは30代後半以上の男性客が中心だろうと予測していたんですが、劇場には若い層、それもデートムービーとして観にきた若い男女が多かったこと。従来のシネコンで上映されている明るく楽しいだけの映画に飽きている層が少なくないようですね。『凶悪』は主演3人の顔合わせから“一体何が起きるんだろう”というゾワゾワ感を抱いたお客さんたちが集まってくれたんだと思います」
実録犯罪ものは事件の持つ話題性から観客への浸透度が高く、潤沢な予算のないインディペンデント系のプロダクションにとっては有効なジャンルである一方、マーケットはそれほど大きくはないとも大場氏は語る。
大場 「実際に起きた犯罪を題材にした映画を作る際に重要なことは、その事件をもとにして人間の内面や業、普段は隠されている人間のリアルな怖さをきちんと描けるかどうかでしょう。凶悪な事件をそのまま再現しようとしても、映画は現実にはかないません。ただ過激さだけを追い求めると、銀座シネパトスで上映中止騒ぎになった実録犯罪もののようにグロテスクなものに陥ってしまいます。製作側とキャストが同じ方向性を持って船を進めないと、遭難しかねない危険性を孕んでいるジャンルでもあるんです」
最後にもう一度、『I am ICHIHASHI』の話題に戻ろう。原作本である『逮捕されるまで』が発売された際に、印税収入はどうなるのかが問題となった。『I am ICHIHASHI』の原作料は、市橋達也に支払われるのだろうか?
セディックインターナショナル社の回答は「通常の映画と同じように、出版元である幻冬舎に原作使用料は支払っています」というものだった。出版社を経由した原作料がどうなったかは、市橋達也サイドの弁護士しか把握していないそうだ。
(取材・文=長野辰次)
『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』
企画・製作/中沢敏明 原作/市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』(幻冬舎文庫) 監督・主演・主題歌/DEAN FUJIOKA 脚本/湯浅弘章 Team D 撮影/鍋島淳裕 配給協力/マンハッタンピープル PG12 11月6日(水)よりネット配信開始、11月9日(土)より109シネマズほか全国ロードショー
(c)2013「I AM ICHIHASHI 逮捕されるまで」製作委員会
<http://ichihashi-movie.jp>
『TAP 完全なる飼育』
企画・製作/中沢敏明 原作/松田美智子 脚本/一雫ライオン 音楽/白井良明 監督/片嶋一貴 出演/前川伶早、西沢仁太、有森也実、高川裕也、山根和馬、千原せいじ、麿赤兒、竹中直人 配給協力/マンハッタンピープル R15 11月6日(水)よりネット配信開始、11月9日(土)より109シネマズほか全国ロードショー
(c)2012「TAP 完全なる飼育」
<http://shiiku-movie.jp>
『凶悪』
原作/新潮45編集部編『凶悪 ある死刑囚の告発』(新潮文庫) 脚本/白石和彌 出演/山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶぅ、村岡希美、外波山文明、廣末哲万、九十九一、原扶貴子 配給/日活 R15 9月21日より全国公開中
(c)2013「凶悪」製作委員会
<http://www.kyouaku.com>
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