タモリのドーナツ化した個性を築き上げた「なりすまし力」という才能『われらラジオ世代』
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しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
タモリほど個性が強いのに、適応力のある人間はいない。基本的に相反するこの2つの要素がタモリの中で平然と両立しているのは、実はタモリの持つ個性が、一般にいわれる個性とは基本的に異なるからだ。彼の個の中心は、常に空洞化されている。そのドーナツの中心にある穴こそが、タモリである。
『笑っていいとも!』(フジテレビ系)終了を電撃発表した翌日から、タモリが5年ぶりのラジオ・パーソナリティーを務める番組が3夜連続で放送された。ニッポン放送開局60周年記念番組『われらラジオ世代』(ニッポン放送 10/23水曜~10/25金曜21:00~21:50)という大仰な名を持つその番組は、しかしいかにもタモリらしい密室的な「個」を感じさせる内容だった。
この番組は「ラジオの現在、過去、未来を語る」というコンセプトで、それぞれの曜日に久保ミツロウ&能町みね子、笑福亭鶴瓶、ももいろクローバーZをゲストに迎えてトークを展開する、というものだが、タモリにかかれば核となるコンセプトなどもはや関係がない。そこにあるのは、ゲストとの対話によって導き出される秀逸な「こぼれ話」の集積であり、中心ではなく辺縁にこそ、彼の面白さの本質がある。
番組は生ではなく事前収録されたものであり、ゆえに『いいとも』終了の件には一切触れていない。だがそんな目先のこと以上に、タモリの過去、現在、未来を貫く本質的な哲学が、なんでもない周辺から、どうでもいいようなふりをして語られる。
初日の放送では、久保&能町を相手に、タモリ流の摩訶不思議な人間関係学が披露された。タモリが『オールナイトニッポン』をやっていた頃の話になると、「いろんな悪口ばっかり言ってました」と懐かしみ、「悪口言ってると(相手が番組に)出てきてくれる」「出てきたら結構面白い。いまだにつき合いありますけどね」と意外な場所へと着地する。今でいうと、完全にドランクドラゴン鈴木拓的な「炎上ビジネス」だが、敵(のちに味方)は近田春夫や井上陽水といった売れっ子の猛者たちである。なんと覚悟の据わったイタズラ心だろうか。
さらに話は、「悪口言って、随分得したことがあるんですよ」と続き、「ワインが嫌い」だと言えば、食通の小説家が「最高級のものを飲ましてやる!」と息巻いてヨーロッパからワインを持ってきて飲ませてくれ、フランス料理もブランデーもその方式で最高級のものを味わえたという。その話を聴いた能町が「『まんじゅう怖い』みたいですね」といったのはまさに言い得て妙だが、結果としてそこからワイン好きになるのではなく、「一番いいのを飲んだからワインはもう(飲まなくて)いい」と、最終的に「無に帰す」のがいかにもタモリらしい。
2日目の鶴瓶との対話では、さらに人間タモリの本質に迫る言葉が不意に登場する。30歳で芸能界入りしたタモリは、歳下の鶴瓶や、さらには明石家さんまよりも芸歴では後輩であるからややこしい、という話の流れから、「(歳下の先輩に対し)どこでなし崩しに先輩面をするかが、この世界に入ったときの第一命題だった」と、タモリの口から思わぬ告白がこぼれた。鶴瓶はその言葉がにわかには信じられぬようで、「悩んでたん?」と何度も確認していたが、そこで「悩んでた風を出したら、ますます乗り遅れるから」と答えるタモリは、やはり一枚上手だ。その後、「入って4~5年目で『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)の審査員やってた」という今では考えられない話に至り、いよいよタモリの本質を突く、決定的なフレーズが本人の口から飛び出す。
「俺の本当の芸は『なりすまし』ってやつだよね」
確かに、タモリの持ち芸である4カ国語麻雀もインチキ神父もイグアナのものまねも、紛うかたなき「なりすまし」の極致である。その能力は、赤塚不二夫や山下洋輔や筒井康隆など、彼を東京に連れ出した才人たちからの無茶ぶりに即応することで鍛え上げられたものであると同時に、そういう稀有な力を持っているからこそ、彼は東京に引っ張り出されたともいえる。タモリはいまだに、タクシーの運転手相手に医者になりすますなどして楽しんでいるという。新聞を読むのも、あらゆる職業になりすますためだと。
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