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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 老舗カレー料理店の美学
故・中村勘三郎、タモリ、関根勤も“信者”

「ムルギーランチは、ただの“料理”じゃない」東京カリ~番長が語る、ナイルレストランの美学

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――客観から主観へ。ある意味、「お袋の味が最高」という感覚に近いものがありますね。

水野 そうですね。例えば、初めて来た人が口コミサイトで星をつけるのも指標として意味があるものですが、食べる楽しみは決してそれだけではない。「いつもとちょっと味が違う」「シェフが挨拶してくれた」というような体験を含めて、常連客は楽しんでいるんです。それが味に直結し、お店を楽しむことにつながります。

――確かに、「料理以外の楽しみ方」は、特にメディアにいると見落としがちになってしまいます。

水野 味覚は好みの問題で十人十色。一人の人間の中でも、時期によっておいしいと感じる味は違います。店で提供されるカレーを楽しむだけでは、受動的な楽しみ方にすぎません。料理をもっと「能動的に食べる」ということをナイルレストランに教わりました。

 もしも、料理が口に合わなかったら、もしかしたら自分の努力が足りないのかもしれません。もう少し努力してお店との関係を築けば、より料理がおいしくなるかもしれない。人間関係でもそうですよね。嫌いだと思っていた人でも、意外な発見でいい奴になることもあります。以前は、そういう向き合い方で、カレーに向き合ってこなかったんです。

――数多くの人が、水野さんのように、「ナイルレストランは特別だ」と語ります。では、いったい、どうしてナイルレストランだけが特別なインド料理店になり得たのでしょうか?

水野 店主のG・M・ナイルさんが、誰よりもこの店とこの味を愛しています。それが最大の理由でしょうね。取材では、何時間も自慢話が続くことがある。でもそれは、自慢じゃなくて自信なんですね。以前、ナイルさんは「自分の店で作った料理に絶対的な自信を持って出す。『お口に合うかわからないけど……』なんていうスタンスで出すなら、店なんてやらないほうがいい」と熱弁していました。ナイルさんは誰よりもナイルレストランを愛し、ムルギーランチが日本一だと思っています。

――創業者のA・M・ナイルさんから2代目のG・M・ナイルさんに代わっても、ムルギーランチの味はまったく変わっていません。それも自信の証しでしょうね。

水野 そうですね。それにナイルさんは、クレバーな経営者でもあるんです。代々のレシピを変えないことがブランディングにつながる、ということを見抜いています。ナイルさんは「預金通帳の金額が増えるのが楽しみ」と語るんです。普通、そんなことを取材であっけらかんと語る人はなかなかいませんよ(笑)。

――その自信が嫌みにならないのも、ナイルさんの明るいキャラクターがあって成立するものですね。

水野 本を執筆するにあたって、常連客に「ムルギーランチのどこがおいしいのか?」という質問をぶつけました。少し意地悪な質問ですが、すると、みんなきょとんとするんです。質問の意味もわからないくらい、常連客にとって、ムルギーランチがおいしいというのは当然のことなんです。

――すっかりみんな「ムルギーランチ信者」なんですね。水野さんは、今後、ナイルレストランにはどうなってほしいですか?

水野 常連として100周年を祝いたいですね。50周年の時はホテルでパーティをしたそうですが、100周年パーティには参加したいです。あと35年です。その頃には、僕もムルギーランチを食べられないかもしれませんが、まだ70代なのでぎりぎり生きていると思います(笑)。

――その頃には、3代目のナイル善己さんも70歳を超えています。100周年を迎えるためには、4代目の育成が必須です。

水野 大丈夫。誰も後継者がいないならば、僕が必ず見つけてきます!
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])

●みずの・じんすけ
1974年、静岡生まれ。99年に結成した男性8人組の出張料理集団「東京カリ~番長」の調理主任。全国各地のさまざまなイベントに出張して、テーマに合わせたカレーと音楽を提供している。2008年にインド・スパイス料理を研究する男性4人組の日印混合料理集団「東京スパイス番長」を結成。編集長としてカレー本の制作に没頭している。カレーに関する著書は15冊以上。

最終更新:2013/10/25 11:21
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