武田鉄矢が語る、ユニークすぎるアジア文化論『101回目のプロポーズ』が愛される理由とは?
#インタビュー
──カンフー映画へのオマージュを込めた『刑事物語』(82)にも主演していますし、中華圏の映画とは縁がありますね。
武田 うん、まだ中国が貧しかった頃は東宝が無料上映をやっていて、『刑事物語』もそのときに上映されていた映画の一本だったんです。『刑事物語』の僕の役名は「片山」だったんだけど、「ペイシャン、ペイシャン」って中国の街を歩くとよく声を掛けられたなぁ。ウイグル自治区に行ったら、取り囲まれるほどの人気でした。「よーし、高倉健までもう少しだ」と思ったんだけど、『刑事物語』に続くヒットが出なかった(苦笑)。今回、リン・チーリンさんたちが熱心に演技に打ち込んでいる現場に一緒にいて、とても楽しかったですよ。今、日本は中国や韓国とうまくいってないけれど、何だか国家、カントリーってさ、つまんないもんだよねぇ。国じゃなくて、アジアってエリアで物事を考えたほうが楽しいし、うまくいくよね。『101回』がさ、アジア中で愛されているのを見るとね。
──人が人を愛する力は、政治や経済問題を軽く飛び越えてしまう?
武田 僕はそう思うなぁ。政治や経済なんて、大して面白いもんじゃないですよ。第一、政治や経済の問題で、トラックの前に飛び出そうなんて考えないでしょ? みんなさ、最近はポリティカルになり過ぎなんじゃないかな。アジアの人間を国境で分けてもあまり意味がないように思うんです。シルクロード寄りの山岳民族ですとか、椰子の実を拾って食べてる海人族ですとか、そういうざっくりした分け方でいいんじゃないかなぁ。アジアの歴史に関する本をいろいろ読んできたんだけど、中国という大きな国がユーラシア大陸には昔からドンとあって、中国で政治に飽き飽きとした人たちが逃げてきた先が日本なんじゃないかと思うことがあるんだよね。巨大国家で渦巻く政治から逃げてきた人たちにとっての楽天地が日本だったわけですよ。この国があまり国家とか民族とか口にするようになると、ロクなことが起きない気がするんだよ。日本って、のどか~なアジアの一角ってことでいいんじゃないかな。坂本竜馬がかっこよかったのは、土佐弁で日本を語ったからだと僕は思うんです。「このままじゃ、日本はいかんぜよ」と。これを「このままじゃ、日本はダメなんです」と標準語で語ると前東京都知事になっちゃう(笑)。国家よりも自分たちが暮らす地域を単位にして物事を考えたほうが本音で語り合えると思うなぁ。
──『101回』はどうやら頭で考えるのではなく、食感や皮膚感覚で楽しむドラマのようですね。
武田 うん、『101回』には国境は関係ないんじゃないかな。今回の劇場版だって、“中国映画”じゃないと思うよ。開発の目覚ましい上海を舞台に、チンタオ出身の労働者が、台湾生まれの令嬢に恋するファンタジーですよ。地方から出てきたお兄ちゃんたちが「見てろよ、俺もいつかあんないい女を抱いてみせるぞ」と憧れるというね(笑)。『101回』は“地方出身者”たちの夢物語なんだと思いますよ。
(取材・構成=長野辰次/撮影=名鹿祥史)
『101回目のプロポーズ~SAY YES~』
原作/フジテレビ『101回目のプロポーズ』(脚本:野島伸司) 脚本/ジャン・ウェイ 監督/レスト・チェン 出演/リン・チーリン、ホアン・ボー、チン・ハイルー、カオ・イーシャン、武田鉄矢 配給/ポニーキャニオン 10月19日(土)より角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
(c)2013 NCM FUJI VRPA HAM
<http://www.101propose.jp>
●たけだ・てつや
1949年福岡県出身。1972年に「海援隊」でデビューし、73年に「母に捧げるバラード」が大ヒット。高倉健主演作『幸せの黄色いハンカチ』(77)で俳優デビュー。79年から『3年B組金八先生』(TBS系)に主演し、2011年まで32年間にわたって坂本金八を演じ続けた。原案&脚本&主演を兼任した『刑事物語』(82)もシリーズ化され、全5作が製作されている。『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)は2012年に『時代劇版 101回目のプロポーズ』として舞台化され、浅野温子と21年ぶりに再共演を果たした。
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