不慣れなラジオの世界に切り込む、大喜利王者の一番槍『バカリズムのオールナイトニッポンGOLD』
#お笑い #ラジオ #バカリズム #逆にラジオ
基本的に彼はまだ、「ラジオならではの距離感」に取り込まれていない。それが不慣れであり初々しくも感じられる最大の要因なのだが、あらゆるジャンルには特有の距離感というものがあって、それはリアルとSNS上の人間同士の距離感がまったくの別物であるように、ラジオにも独特の距離感というものがある。その距離感はその世界においては「常識」になっているから、そこに新たな基準を持ち込むと、一時的に受け手の混乱を招いたりもする。
実際、レギュラー放送初回の冒頭でバカリズムは、リスナーからの「なんとお呼びしたらいいですか? 好きな呼ばれ方はありますか? もしくはリスナーとわかる呼び方を新たに決めるとか」という内容の、ラジオでは良くあるタイプの距離感を詰めてくるメールを途中まで読んだ上で、「長い!」のひとことで一蹴するという、会心の一撃をいきなり繰り出した。結果として、このやりとり自体が「ありがちなラジオ」に対するパロディとして成立しており、すでに互いの距離感が確定している状態であれば温かい笑いが生まれるはずなのだが、その後リスナーからは、「オープニングでバッサリとリスナーを切り捨てる姿に足が震えています。バカリズムさんは僕たちのことが嫌いですか?」「バカリズムさんは長いメールが嫌いということで……」という怯えたメールが寄せられるという不測の事態に。
とはいえ確かに、この手の質問メールは半ば儀礼的なもので、特に面白く答えようのないものであるという判断は、おそらく正しい。ちょっと厳しいように感じるかもしれないが、これはリスナーを単なるファンとしてではなく、対等な対話相手としてその実力を認め、尊重するというスタンスの表れでもある。その証拠に、彼はコーナーに寄せられたそれぞれのメールに対し、非常に分厚いコメントをつけ加えて笑いを増幅させる。たとえばエロに関する偏見を募る『エロリズム論』のコーナーでは、「好きなアーティストを訊かれたときに、『誰も知らないと思うけど』を枕詞にしてマイナーバンドを答える女はマグロだ」という投稿に対し、「超わかる」「優越感に浸ってる顔」「サブカルぶってる女の感じ」「わかったわかった、はい詳しい詳しい」「マグロでもカジキマグロ」「貞操観念ゆるいくせにマグロ」「で、乳首が長い」「全然、歳言わない」「会う人によって歳変えてたりする」と、異様に元ネタを深追いして自身の偏見を乗っけまくるシンクロ率の高さ。
かと思えばやはり厳しい部分もあって、各コーナーごとに「面白がり方は発想というよりもチョイスの部分」「変にうまいことたとえるのではなくて、もっと不条理な感じ」などと、もちろん初回というのもあるが、リスナーに踏み込んだ方向性のアドバイスまで授けている。普通は「投稿者任せでコーナーの方向性がその都度変わっていき、収集がつかなくなった時点でコーナー終了」というパターンの番組が多いのだが(それはそれで面白い)、ここまでやるのは、かつて『JUNK』(TBSラジオ)をやっていた頃のアンタッチャブル柴田以来である。しかしこの遠すぎたり近すぎたりするバカリズム独特の距離感は、いずれにしろリスナーのセンスを尊重した姿勢と見るべきだろう。結果として投稿者のモチベーションはかなり上がっているはずだ。
それ以外にも、番組内に挿入される2度のニュースを読み上げる報道部のデスクの女性に異様に興味を示し、「2回目のニュースまでの間、何してたんですか?」「『デスク』って格好いいですよね」「デスクはみんなあるじゃないですか。僕もデスクあるんですよ家に」と急激に距離を詰める質問を連発するなど、その独特の距離感と角度のある視点は至るところに発揮される。
新しいものは常に外部から持ち込まれるといわれるが、もちろんその世界に一歩足を踏み入れたら、外部の人間も内部の人になる。つまり新参者には、内部にいながらにして外部からの視点を持ち続けることが求められるわけだが、ラジオにとってバカリズムは、話のプロである芸人であり投稿職人気質を持っているという意味では内部に、一方でラジオパーソナリティー経験の少なさ、そして聴取経験の乏しさという意味では、今のところまだ外部の感覚を残している。この先、経験を積むことでいくらか様相が変わるのかもしれないが、そもそも彼は、不慣れで情報のないところから奇抜な発想を立ち上げる魔術師である。その点を踏まえるならば、ラジオがバカリズムを飼い慣らすよりも、彼の外側からの視点がラジオをいい意味で変えてくれるのではないかと、期待が膨らむ。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)
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