写真家はレントゲン写真の夢を見る? X線写真家が写し出す、美しきスケルトンの世界
#本 #写真集
昔、『志村けんのバカ殿様』で、女性の服が透けて見える眼鏡というコントをやっていた。ゴールデンタイムでおっぱいを放送するのにまだ寛容だった時代。男子たちは突如現れたおっぱいに、こぞって注目をした。そして、ひとしきり笑った後、「ああ、こんな眼鏡があれば……」と誰しもがため息をついたものだ。
外からはうかがい知ることができない内面への欲求は、男子ならずとも普遍的なもの。そんな欲求を具現化したような写真集が『世界で一番美しいレントゲン図鑑』(エクスナレッジ)だ。イギリス人写真家、ニック・ヴィーシーによる、タイトル通り、レントゲン写真によってスケスケの美しさを描き出した一冊となっている。
防護服に身を包み、防護グラスで完全防備する様子からは、とても写真家に見えないニック。彼の仕事場は写真スタジオではなく、厚さ700ミリの高密度コンクリートでできた専用のレントゲンハウス「ブラックボックス」。ここでX線写真を撮影し、現像したフィルムをスキャン。パソコンで編集を行った上で、ため息が出るばかりに美しいスケルトン写真を完成させていく。
これまでに数千枚のX線写真を手がけてきた写真家は、被写体としてさまざまなジャンルのものに挑戦する。本書でも、スニーカー、自転車、電球、ゲーム機、パソコン、ギターなどの物体をはじめ、中指を立てられた手、バスに乗る人々、イギリスのバンド「スーパーグラス」のメンバーなどを撮影。また、花や昆虫などの自然物や、おそらくファッション誌には掲載されることのないスケルトンの洋服写真など、そのレンズは多岐にわたる物体に向けられる。
中でも彼の代表作となるボーイング777の写真は圧倒的だ。数カ月の制作期間をかけ、500個を超えるボーイング777の部品をX線写真で撮影。格納庫に納められたボーイング777の内部が再現されている。この一枚で、ニックは数々の写真賞を受賞した。
しかし、この風変わりなスタイルによって、彼は普通の写真家には考えられないような苦労をする。人体に有害な強い放射線を使用するため、生きているモデルは使えない。フリーダと呼ばれる骸骨を使用したり、献体された遺体にポーズを取らせて撮影する……と、あまり気分のよくない撮影も強いられるそうだ。撮影の最中の事故で2度も被ばくを経験しているし、夢で見る映像もX線写真のようになってしまうという。
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