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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.240

血縁・地縁が崩壊した現代に是枝監督が問う! 新しい“父性像”の模索ドラマ『そして父になる』

soshitechichininaru02.jpg6年間育てた我が子は、他人の子だった! 子どもへの対応を巡り、良多(福山雅治)とみどり(尾野真千子)の夫婦間に亀裂が生じる。

 『そして父になる』には対照的な2つの家族が登場する。都心のタワーマンションに住む野々宮良多(福山雅治)は大手建設会社に勤めるエリート社員。会社の元同僚で専業主婦となった妻みどり(尾野真千子)、父・良多と違っておとなしい性格の慶多(二宮慶多)との3人暮らしだ。慶多の名門私立小学校入学を控えたある日、“取り違え”の事実が明るみになる。病院側は平謝りするが、その謝罪の席に現われたもう一方の家族は群馬在住の斎木雄大(リリー・フランキー)、ゆかり(真木よう子)の夫婦。斎木家は街で小さな電器屋を営み、取り違えられた琉晴(黄升炫)はわんぱくそのもの。さらに幼い弟と妹、ゆかりの父親が同居する3世代家族だった。病院側に「なるべく早く交換したほうがいい」と促され、まず両家は子どもたちを交えた食事会を開き、さらに週末限定で子どもたちをお互いの家にお泊まりさせていくことになる。

 子どもたちは最初こそ兄妹・親戚が増えたかのように大はしゃぎしていたが、やがて慶多と琉晴は自分たちはこれまで育ててくれた親元を離れて暮らさなくてはならないという驚愕の事態に気づく。6歳にして突き付けられた不条理な現実に対し、琉晴は必死に抗い、慶多は哀しみや淋しさを無言で飲み込んで新しい環境に順応しようと試みる。はたして経済的に恵まれた都心暮らしのエリート一家とビンボーだけど愛情いっぱいの大家族、どっちの生活が子どもたちにとって幸せなのだろうか?

 本作の参考文献となっている『ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年』(文春文庫)が非常に面白い。1971年に沖縄の病院で起き、77年に発覚した「女児取り違え事件」を描いたノンフィクション小説で、取り違えられた少女たちの交換から成人するまでを長期間にわたって取材し続けている。取り違えは血のつながった実の子を取り戻し、その後は交流を一切断つのが一般的なのだが、沖縄で起きたこのケースは珍しい展開を見せた。育てた子どもとの絆が断ちがたく、一方の家族が育てた子のいる家のすぐ真向かいに引っ越してきたのだ。2つの家族が複合する一種の拡大家族のような形態となった。母2人、父2人で愛情4倍の素晴らしい大家族となった……と思いきや現実はかなりシビアだった。一方の母親が毎晩のように外で酒を飲んで、朝方に帰ってくるというネグレクト化していたことから、血のつながっていた子は実の家族にはなつかずに、育ての親の家に入り浸るようになっていく。子育てに力を注ぐ親のほうに、実の子も育てた子も引き寄せられてしまったという結末を迎えている。ただ血がつながっていれば黙っていても自然と親子になれる、というわけにはいかなかったのだ。

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