『第9地区』ニール・ブロムカンプ監督最新作 SFアクション大作『エリジウム』
#映画
今週紹介する新作映画は、未来を舞台にしたハリウッド製SFアクション大作と、実在の死刑囚に取材したノンフィクションに基づく和製犯罪ドラマ。一見印象が大きく異なる2本だが、「格差」「貧困」といった現代の問題を浮き彫りにする社会派作品という共通項もある。
9月20日公開の『エリジウム』は、『第9地区』(09)のニール・ブロムカンプ監督がマット・デイモン主演で描くSFサスペンスアクション。2154年、人類は地表から400キロ上空に浮かぶスペースコロニー「エリジウム」に暮らす富裕層と、スラム化した地球で過酷な労働と生活を強いられる貧困層に二分されていた。スラム暮らしの労働者マックス(デイモン)は、工場の事故で大量の放射線を浴びてしまい、余命5日と宣告される。エリジウムにはどんな病気でも治せる装置があることから、マックスは弱った身体を外骨格型スーツで強化し、エリジウムへ潜入を試みる。
南アフリカ出身のブロムカンプ監督は、かつて悪名高いアパルトヘイト政策をとっていた同国の人種差別を、「人類に隔離され支配されるエイリアン」という構図で風刺した長編デビュー作『第9地区』で高い評価を得た。今作でも、超リッチで高度な医療を享受できる層と、貧しく抑圧される層との格差を、天空のコロニーと地上のスラムという分かりやすいメタファーで描く。作品中に登場する日本刀や手裏剣、武士の甲ちゅうに似たプロテクターなど日本カルチャーからの影響も明らかで、特に木城ゆきと作のSF漫画『銃夢(ガンム)』と世界観がよく似ている点は、海外の映画情報サイトでも指摘されている。ちなみに『銃夢』の映画化権はジェームズ・キャメロンが取得したが、超人的な女戦士が活躍するキャメロン製作のテレビドラマ『ダークエンジェル』でブロムカンプはリードアニメーターを務めており、『銃夢』の存在を知っていても不思議ではない。こうした先行作品からの影響や共通点をマニアックにチェックするもよし、CGで驚くほどリアルに描かれたロボットやエリジウムの景観、スリリングで迫力満点のバトルに感嘆し興奮するもよし。さまざまな楽しみ方ができる娯楽大作だ。
続いて9月21日に封切られる『凶悪』(R15+)は、死刑囚の告発をもとに、雑誌記者が未解決の殺人事件に迫っていくベストセラーノンフィクション『凶悪 ある死刑囚の告発』(新潮45編集部編)を映画化。東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤(ピエール瀧)と面会した雑誌記者の藤井(山田孝之)は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3件の殺人に関与しており、すべての首謀者は「先生」と呼ばれる木村(リリー・フランキー)だと告白される。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。
多額の借金を抱え家族からも「お荷物」になっている高齢者を預かり、病死などに見せかけて殺し保険金をせしめるという、ある意味究極の「貧困ビジネス」が実在することに驚かされる。取材を通じて「先生」らの凶悪な行為に触れるうち、次第に狂気に感染して変貌する藤井を演じ切った山田孝之が圧巻。藤井の認知症の母親と介護に疲弊する妻(池脇千鶴)のサブストーリーを織り交ぜることで、特殊な凶悪事件とジャーナリストの話にとどめず、多くの人にとって身近で切実な高齢化と介護の問題や、日常に潜む「邪悪な感情」と地続きであることを実感させる。監督は『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)の白石和彌。長編2本目にしてこの構成力と演出力、緊張に満ちた語り口と重厚な映像に、今後のさらなる活躍を確信するはずだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『エリジウム』作品情報
<http://eiga.com/movie/58255/>
『凶悪』作品情報
<http://eiga.com/movie/77879/>
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事