オンナとは“引き算”なのだ! 女性を哲学する最強の名言メーカー『おんなのいえ』
#マンガ #コミック #女子マンガが読みたくて
男だって、堂々と女子マンガが読みたい!――そんな内なる思いを秘めたオッサンのために、マンガライター・小林聖がイチオシ作品をご紹介!
「女性マンガ」っていうのには2種類ある。ひとつは「女性のために描かれたマンガ」。王子様キャラが出てきて、夢を叶えてくれるようなもので、いわゆる「少女マンガ」と呼ばれるタイプだ。
そして、もうひとつは「オンナについて考えているマンガ」。オンナという性を生きるということについて、掘り下げていくタイプの作品だ。かつては『ハッピーマニア』でオンナと恋を哲学した安野モヨコや、“オンナあるある”の名手である安彦麻理絵などが君臨していたジャンルで、最近なら『にこたま』でアラサーカップルの結婚と人生をめぐる物語を描いた渡辺ペコや、オンナの業を描き続けるヤマシタトモコあたりも入るだろう。
そんな「オンナマンガ」で今ひときわセンシティブなところを突いているのが、鳥飼茜の『おんなのいえ』だ。
29歳で彼氏に振られた長女・有香を中心に、その妹、父と事実上離婚状態の母というオンナだけの家族を描いた作品なのだけど、これが今屈指の名言メーカーなのだ。
たとえば、自分を振った彼氏を見返したいと話す有香に向かって語られる「男は別れた女の成長なんか、ひとつも興味ないよ」という身もフタもない言葉から始まる一連のセリフ。
「むしろ許せないのは敵じゃなくて、そいつに負けた恥ずかしい自分だ」
「本人が自分を許せない限り、終わんないんだよ」
このほかにも「ひとりでさみしい人間はね ふたりでもさみしい」などなど、おっかない名ゼリフがそこら中に出てくる。この辺のセリフ群は、男が読んでもちょっとのけぞってしまう威力がある。
だけど、同時に『おんなのいえ』はタイトル通り、徹底的にオンナについて描いている。ここで言う“オンナ”を象徴するのは、「損してる暇なんてない」という言葉だ。
このセリフは、ちょっと気になった男性が既婚者だと気付いた有香が、後日モノローグで語ったものだ。時間がない、遊び相手じゃなく、結婚できる人を探さなければいけない。アラサー女性なら、どうしてもついて回る感覚だろう。
だが、この感覚は有香世代だけのものではない。事実上離婚状態でありながら、正式に離婚せずにいた有香の母もまた、同様のことを語る。
「こんなに耐えて、こんなに費やしたのに」
「終わらしたら…キチンと決着したらその時間 その15年なんやってん? って」
これは引き算の感覚だ。
人生は基本的に足し算から始まる。新しいことを学び、経験し、年月を経るほどに持ち物が増えていく。ある年齢までは、たぶん男女ともに足し算の感覚を生きているはずだ。失敗しようが、間違えようが、足し算である限りは前進しているという感覚を生きられる。
ところが、オンナを生きるとき、ある時点でそれが引き算に変わる。失敗は時間のロス、足踏みもマイナス。正解の選択だけが、かろうじて人生を前に進めてくれる。そんな感覚だ。
アラサーという年齢は、女性の場合、この引き算の感覚が強くなる。しかし、一方で我々男は、仕事もプライベートもまだまだ足し算の感覚にある年齢だ。なんなら、ずっと足し算のまま生涯を終える人だっているだろう。このギャップは、アラサー男女の噛み合わなさのひとつの大きな原因だろう。
『おんなのいえ』は、この引き算の感覚が中心にある。「オンナである」というのは、一面では引き算を生きることでもあり、その意味で『おんなのいえ』とは「引き算のいえ」なのだ。
じゃあ、引き算を生きることに出口はあるのか? 目下連載中の本作では、まだその答えは出ていない。だけど、ヒントはある。前出の母のセリフはこう続く。
「でもなぁ 失った時間とはどっかで手を切らへんと」
「『変わる』ことはできひんかもしれんと思ってな」
「本人が許せない限り、終わらない」というセリフと通じるが、それはたぶん、引き算を終わらせることなのだ。オンナという引き算を、どうやってもう一度足し算にするか。気の持ちようで片付くほど、簡単なことではないけれど、きっと出口は足し算の人生を取り戻すことにあるはずなのだ。
(文=小林聖 <http://nelja.jp/>)
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