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謎めいた美女は悲劇のヒロインか悪女か ヒッチコック風サスペンス『サイド・エフェクト』

sideeffect.jpg(C) 2012 Happy Pill Productions.

 今週紹介する最新映画は、伝統的な様式をベースに新たな着想と現代的なセンスを加味して才気あふれる作品に仕上がった洋画2本。映画の楽しさと可能性をあらためて教えてくれる傑作たちだ。


 9月6日に封切られる『サイド・エフェクト』(R15+)は、社会問題に切り込む硬派な作品から豪華スター競演の娯楽大作まで、多彩な話題作を送り出してきたスティーブン・ソダーバーグ監督が、自身の“最後の劇場映画”として挑んだヒッチコック風サスペンス。若妻のエミリー(ルーニー・マーラ)は、金融マンの夫マーティン(チャニング・テイタム)がインサイダー取引で収監された4年の間に、かつて患ったうつ病を再発させる。精神科医のバンクス(ジュード・ロウ)が処方した新薬により、エミリーはうつ症状を改善させるが、副作用で夢遊病を発症。出所して再び一緒に暮らし始めたマーティンを、意識がもうろうとした状態で刺殺してしまう。主治医としての責任を問われ、仕事も家族も失う危機に直面したバンクスは、問題の新薬を独自に調べ始める。

 悲劇のヒロインか男を破滅させるファム・ファタールか、謎めいた美女をルーニー・マーラが迫真の演技で表現。『ドラゴン・タトゥーの女』(11)の女ハッカー役に続いてスレンダーな肢体を大胆に披露し、美しくも危険な魅力を放っている。ソダーバーグ監督は、精神疾患と司法制度、製薬会社と医師をめぐるカネ、株の不正取引などさまざまな現代の問題を盛り込みつつ、緻密に伏線を張って一級のサスペンスに組み立てた。登場人物らの言動が、意図しない副作用(サイド・エフェクト)を起こして予想外の事態につながっていくさまを、リアルさを重視した映像とともに楽しみたい。

 続いて9月7日公開の『アップサイドダウン 重力の恋人』は、ジム・スタージェス、キルステン・ダンスト主演で描くSFラブストーリー。真反対に引力が作用する双子惑星で、貧困層の住む「下の世界」の少年アダムは、富裕層が暮らす「上の世界」の少女エデンに恋をする。両世界の交流を禁じる法を破った2人は警備隊に見つかり、アダムの家は焼き払われ、エデンは逃げる際の事故で記憶喪失になってしまう。それから10年後、アダムは両世界を唯一つなぐ「トランスワールド社」に就職し、上の世界に潜入してエデンとの再会を試みる。

 メガホンをとったフアン・ソラナス監督は、カンヌ映画祭で監督賞を受賞したアルゼンチンの巨匠フェルナンド・E・ソラナスを父に持ち、長編映画はこれが2作目となる新鋭。夢で見たという逆さまに向き合う男女のビジュアルを出発点に、『ロミオとジュリエット』から連綿と続く格差恋愛物語のSFファンタジー版といった趣の脚本を書き起こし、オリジナリティあふれる世界観を驚異的な映像で表現した。トランスワールド社の上下シンメトリックにデスクが並び天井側にも社員が逆さまに行き来する圧倒的なオフィスの光景や、2人が逢瀬を重ねる山頂で逆さまにキスするファンタジックで詩的なシーンなど、二重の引力という設定から生まれるユニークでインパクト大の場面の数々に息をのみ、想像をかきたてられる。逆さまの男女が織りなすラブストーリーという点は、11月に公開される日本のアニメ映画『サカサマのパテマ』にも共通しており、こうした特殊な設定の映画がほぼ同時期に製作されるというシンクロニシティの不思議も感じつつ、両作品を見比べるのも一興だろう。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『サイド・エフェクト』作品情報
<http://eiga.com/movie/77977/>

『アップサイドダウン 重力の恋人』作品情報
<http://eiga.com/movie/78215/>

最終更新:2013/09/06 21:00
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