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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.237

韓国では、大統領もヤクザも似たようなもの? 嫌韓流も楽しめる、裸の韓国人像『悪いやつら』

waruiyatsura03.jpgアクション大作『ベルリンファイル』も韓国で大ヒットし、人気と実力を兼ねそろえたハ・ジョンウ。カリスマ性が漂います。

 1980年代の釜山を舞台にした本作では、ノ・テウ大統領が“犯罪との戦争”を宣言し、暴力団の一掃を図る。それまで濡れ手に粟状態だったイクヒョンとヒョンベの蜜月関係に亀裂が生じることになるが、ノ・テウ大統領自身も退任後の1995年に政治資金の隠蔽が発覚し、刑務所送りとなる。韓国の大統領は末路が実に悲惨だ。2009年に検察の取り調べを受けていたノ・ムヒョン元大統領が自殺に追い込まれたのをはじめ、ほとんどの大統領がクーデターによる失脚、暗殺、投獄……とズタボロの晩年を送るはめになっている。身内に便宜を計るあまり、政権交替後のしっぺ返しが尋常ではない。しがない小役人だったイクヒョンが血縁関係のあるヒョンベの力を借りて裏社会であざとく出世していく姿は、歴代韓国大統領たちのサクセスストーリーの縮小版にすぎない。

 悪いやつらが次々と登場する本作だが、どこか妙な懐かしさも感じさせる。お調子もののイクヒョンは力の強い相手にはペコペコしているが、酒を呑むと急に慣れ慣れしくなる。調子に乗りすぎて、ヒョンベの部下パク(キム・ソンギュン)にボコボコにされてしまう。カタギにもヤクザにも徹しきれないイクヒョンは“パンダル”と呼ばれるハンパものだ。浮かれ具合としょんぼりしたときの落差があまりにも大きく、やたらと人間臭い。そして、その憎みきれないお調子ものぶりは、映画を観ていた自分に忘れかけていた過去の記憶を思い起こさせる。

 その昔、親戚一堂が集まる冠婚葬祭の場に、イクヒョンによく似たオッサンがときどき現われた。そのオッサンはいつも場違いな服装で浮いており、酒を呑んでは顔を真っ赤にしていた。酔っぱらう度にそのオッサンは景気のいい話をやたらと吹いていたが、やがて親戚中から借金をしまくった挙げ句に消息を絶ってしまった。オッサンが消えた後の空き家には、催促状の束が溢れ返っていたそうだ。多分、あのオッサンは自分の居場所を、この国の中にはどこにも見つけることができなかったのだろう。うさん臭いという言葉がいちばん相応しかったあのオッサンに、旅先でばったり再会した気分だった。もはやホラ吹きなあのオッサンが生息できる場所はスクリーンの中しかなかった。
(文=長野辰次)

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『悪いやつら』
監督・脚本/ユン・ジョンビン 出演/チェ・ミンシク、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、マ・ドンソク、クァク・ドウォン、キム・ソンギュン、キム・ヘウン、クォン・テウォン、キム・ウンス 配給/ファインフィルムズ 8月31日(土)よりシネマート新宿、9月14日(土)よりシネマート心斎橋ほか全国順次公開 (c)2012 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND PALETTE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
<http://waruiyatsura.com>

◆『パンドラ映画館』過去記事はこちらから

最終更新:2013/08/30 21:00
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