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小林政広監督ロングインタビュー

無縁社会、年金問題……沈みゆくこの国の現実! 国際派監督が描いた密室ドラマ『日本の悲劇』

nihonnnohigeki02.jpg母(大森暁美)と嫁(寺島しのぶ)がそろった家族の食卓。いつまでも続く平凡な日常風景になるはずだったが……。

──幸せが通り過ぎた後で、人はそれが「幸せだった」ことにようやく気づくんですね……。あらためてお聞きしますが、小林監督は年金不正受給問題をどのように考えていますか?

小林 正規雇用の仕事が少ない、鬱病が増えている、自殺者が減らない……。やっぱりお金の問題ですよね。お金を稼ぐことができず、食べることもままならない。アベノミクスで景気が良くなったとニュースで報じられるけれど、誰も実感できずにいる。反原発を訴えた山本太郎に、宮根誠司が「江戸時代に戻るんですか?」と言ったことが話題になったけれど、どこかで意識改革は必要でしょう。原発だけじゃなくて、資本主義の在り方をね。発展途上国だけどインドのほうが、今の日本より精神的に豊かなように映りますよね。日本以上に米国はもっと悲惨なことになってるでしょ。社会そのものを見つめ直さないとね。でも、ボクは政治家でも政治学者でもないんで、具体的にどうすればいいのかは分からないんですが。

──分からない問題、答えが出ない問題にカメラを通して向き合うのが映画監督のようですね。

小林 そうね。答えがすぐに出せるなら、映画を撮る必要はないわけです。答えが待っているものじゃ、作っていても面白くない。解決できないものを考えていきたいですね。解決できないものの中にこそ、もっと大切なことがあるように思うんですよ。映画づくりというのは、ひとつのテーマをとことん考える作業だと思うんです。大切なのは答えを出すことじゃなくて、考えて考えて考え尽くすことだとボクは思う。

──問題だらけの日本の年金制度ですが、映画監督に年金制度ってあるんでしょうか?

小林 フランスでは映画を1、2本撮った監督は監督協会に入会できて、映画が撮れずにいる間は協会から毎月20~30万円くらいの手当が支給されるんですよ。だからフランスの映画監督は4~5年に1本くらいしか映画が撮れなくても、けっこー優雅に暮らしているんです。フランスではそれだけ映画が文化として高く評価されているわけです。日本の映画監督協会? ボクは入ってないから詳しいことは知らないけど、年に1度集まっての飲み会などの親睦が目的じゃないかな。あっ、そうだ。日本脚本家連盟には一応入っているんだけど、いよいよ来年から年金が支給されるんです。年に1万2,000円なんだけどね(笑)。フリーランスで働く人間にとって、今がいちばん厳しい時代じゃないですか。
(取材・文=長野辰次/撮影=名鹿祥史)

『日本の悲劇』
脚本・監督/小林政広 出演/仲代達矢、北村一輝、大森暁美、寺島しのぶ 
配給/太秦 8月31日(土)より渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (c)2012MONKEY TOWN PRODUCTIONS 
<http://www.u-picc.com/nippon-no-higeki>

●こばやし・まさひろ
1954年東京都生まれ。高田渡に弟子入りし、林ヒロシの名でフォーク歌手として活動。その後、郵便局員などを経て、シナリオライターデビュー。約500本ものドラマを手掛けた。監督デビュー作『CLOSING TIME』(96)は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で日本人初のグランプリ受賞。『海賊版=BOOTLEG FILM』(99)、『KOROSHI 殺し』(00)、『歩く、人』(01)で3年連続カンヌ映画祭に招待。『バッシング』(05)はカンヌ映画祭コンペ部門に選出された。『女理髪師の恋』(03)はロカルノ映画祭特別大賞、『愛の予感』(07)はロカルノ映画祭初となる4冠を受賞。仲代達矢を主演に迎えた『春との旅』(10)は毎日映画コンクール日本映画優秀賞ほか数多くの賞を受賞。その他にもEXILEの眞木大輔と吉瀬美智子が主演した『白夜』(09)、震災直後の宮城でロケ撮影した『ギリギリの女たち』(11)などコンスタントに作品を発表している。

最終更新:2013/08/29 18:00
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