無縁社会、年金問題……沈みゆくこの国の現実! 国際派監督が描いた密室ドラマ『日本の悲劇』
#映画 #インタビュー
小林 そうなんです。仲代さんの背中をずっと撮っていたんだけど、役者ってどうしてもカメラのほうに振り向いて演技したがるから、そのときは「ずっとそのままで」と言おうと思っていたんです。背中から撮ることの意味も仲代さんには説明しました。「これは不二男の回想ですから、不二男は影になってほしい」って。仲代さんは納得してくれました。終始、背中を向けたまま、動かなかった。すごいですよ(笑)。覚悟を決めた男と、死に行く父親を見届けることに心が揺れ動く息子の物語。年金の不正受給の話じゃなくなっていますよ(苦笑)。実際にね、ボクの母親が亡くなったとき、1年くらい病院に通っていました。世話をしながら、正直なところ「早く死なないかな」と思ったりしたこともありました。治らない病気の場合、延命治療にどれだけの意味があるんだろう。本人は「痛い、痛い」と苦しんでいるわけです。でも、薬を注射されて気分がいいときもあって、そういうときは「あぁ、オフクロが生きていてよかった!」とも思うわけです。死んでゆく親を看取る子どもの気持ちは、絶えず揺れています。悪魔的になったりもするし、健気な子どもになったりもするんです。
──仲代さん、東海テレビが今年劇場公開した『約束 名張毒ぶどう酒事件死刑囚の生涯』では冤罪死刑囚を演じていましたが、本作でも「撮影中に役者人生をまっとうできれば本望だ」と言わんばかりの迫真の演技です。
小林 『春との旅』の宣伝でご一緒したときには「もうボクは無名塾もやめて、バイクで世界を旅して、どこかで野垂れ死にできればいい」と言ってましたよ。「バイクの免許は持っているんですか?」と尋ねると、「持ってない」と答えてましたけど(笑)。まぁ、演じることは根っから好きなんだと思いますよ。本人に確かめたわけじゃないですけど、「板(舞台、セット)の上で死ねれば最高だ」と思ってるんじゃないですかね。今回の撮影は2週間でした。仲代さんが疲れないよう、明るい時間に撮影が終わるように余裕のあるスケジュールを組んだんですが、1ショットが長くて凄い緊張感の中での撮影だったんです。1ショットごと息を止めながら撮影しているような感覚。撮っている側が気絶しそうになってしまった(苦笑)。
──再就職がなかなかできない息子・義男には、『女理髪師の恋』(03)以来の小林監督作品への帰還となった北村一輝。最近は『妖怪人間ベム』『テルマエ・ロマエ』などすっかりメジャーシーンで活躍する人気俳優に。
小林 でも、全力を出し切る仕事というのはしてなかったと思うんですよ。今回の現場はそうじゃなかった。持っているものを全部出さないと成立しない。だから、苦しいという感覚もあったかもしれないけど、楽しいという感覚のほうが勝っていたと思いますよ。『日本の悲劇』のクランクイン直前まで『ATARU』の撮影を北村くんはやっていたんですが、それで深夜に『ATARU』の撮影が終わってから別のスタジオを自分で借りて朝まで役づくりをやっていたそうです。大森暁美さんも寺島しのぶさんもそうですが、誰も撮影現場に台本を持ってくる役者はいませんでした。毎回そうなんですが、みんなしっかり役づくりしてから現場に入ってくれるんです。
■答えが出ない問題にこそ、大事なものが隠されている
──家族がみんなそろうシーンは涙腺直撃です。まさか小林監督が“泣かせ”に走るとは思いませんでした。ライアン・ゴズリング主演の『ブルーバレンタン』(10)やギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(02)を思わせる反則技の演出じゃないですか?
小林 『ブルーバレンタイン』って、こういう映画なの? 観てないので分からない(笑)。『アレックス』はずいぶん前に一度観たかな。偶然ですよ。あまりシリアスなシーンばかりはどうかなと思って、後から考えたシーンなんです。シナリオを書いてて自分でグッと来ちゃった(笑)。自分で書きながらあらためて思いましたよ。人が幸せだなって感じる瞬間はほんの一瞬なんだなって。しかも、感じている瞬間はそれが「幸せだ」とは気づかないものなんですよ。
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