「ももクロ現象こそ、アート本来の姿」東京大学准教授が美学の視点から大胆分析
#リアルサウンド
【リアルサウンドより】
アクロバティックなパフォーマンスで人気を博すももいろクローバーZ。今月4日には日産スタジアムに6万人を動員するなど、アイドルシーンで最も勢いのあるグループと言えるだろう。
いわゆるアイドルオタクではない層もファンに取り込んでいるが、東京大学大学院准教授で美学研究者の安西信一氏もそのひとり。今年4月には、『ももクロの美学――〈わけのわからなさ〉の秘密』(廣済堂新書)を上梓した。そんな安西氏が、美学的な視点から見たももクロの魅力について語る、集中連載第一回目。
――『ももクロの美学』は、美学的な視点からももクロを論じる、これまでにない切り口の一冊ですね。なぜ本を出すことに?
安西信一(以下、安西):私の狭い意味での専門は、庭園や環境の美学。その関連で、日常性の美学を考えたいと思っていたんです。近年、アートがどんどん大衆化、日常化していますよね。従来のアートを否定する気はありませんが、多くの人の心を揺さぶる”衝撃力”という観点で考えると、アートの本来の姿は、ももクロのように日常に寄り添った現象のほうではないのか――そう考えると、美学者として放っておけませんでした。
アートは人々の日常に開かれる方向に変化しているため、ももクロのようなものとの差は、実はけっこう少ない。例えば、ももクロが春にリリースしたアルバム『5TH DIMENSION』。話題を集めたドリアンマスクからPVにおける美術まで、モダニズム芸術的といってよい手法を取り入れています。演出は、創作ダンスやオペラや舞踊に近いですね。違和感を覚えたファンも多かったようですが、最近の美術に慣れた身としては「融合」だと感じた。このように、垣根はどんどんなくなってきているのです。
かつ、繰り返しになりますが、ハイアートより日常に寄り添ったもののほうが芸術として重要な現象になってきました。僕はそこに理論的な関心を持っています。
――数多といるアイドルの中で、なぜももクロだったのでしょう。これまで関心のあったアイドルは?
安西:モー娘。やAKBもそれなりに好きでしたが、オタクになったというほどではありません。強いて言えば、森高千里ですね。「非実力派宣言」「わたしはおんち」などの楽曲からは、アイドルに対する批評的・反省的なスタンスが見え、知的な意味でおもしろいと感じていた。いわゆるメタアイドル性ですね。また、南沙織のデビュー曲「17歳」をカバーするなど、「シミュラークル」(虚像、模造)としてのアイドルを意識的に打ち出していたところにも共感を持っていましたね。ここは一面でももクロと共通する部分だと思います。あとは、松浦亜弥もけっこう好きで、授業で使う映像再生機の動作チェックに彼女のDVDを用いたこともありました(笑)。
森高も松浦も、音楽としてではなく、ひとつの現象として捉えていました。一方ももクロには、まず音楽的な関心を抱いた。それまでも漠然とは知っていましたが、決定的な出会いは「Z伝説~終わりなき革命~」です。
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