「第2の原子力ムラ」と化した製薬業界の闇と、寄生する“マスゴミ”の醜態
#出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
その上、厚労省が立ち上げた、ノバ社の疑惑を検証する検討委員会のメンバーに、当の日経BP社の社員である宮田満氏が含まれているというのだ。
宮田氏の選出によって委員会の信頼性を失うとするのは、同じく検討委員に選ばれたNPO法人臨床研究適正評価教育機構理事長の桑島巌氏である。
また日経BPの認識は甘過ぎると批判するのは弁護士で企業コンプライアンスの専門家・郷原信郎氏だ。
「今回の問題は、バルサルタンのプラスアルファの効能に関する研究データの不正操作にあった。そのため『誇大広告の禁止の規定』(薬事法)への抵触が考えられます。(中略)
いずれにせよ、刑事事件にまで発展する可能性がある悪質なものです。日経は、ノバ社との利害関係が疑われているという自覚を欠いていると言えるでしょう」
先日、慶應大学病院の近藤誠氏にビジネス情報誌『エルネオス』のインタビューで会ったが、その際もこの問題が出た。近藤氏はこう語っている。
「ノバルティスの問題で言うと、あれは試験に製薬会社の社員がかかわって統計解析までやっていたのに、そのことを公表してなかったことが問題だと、まずそこから始まりました。利益相反とは両方の代理人になるという意味なんだけど、一人の人間が製薬会社の代理人で論文を書く人でもあるというのは利益相反行為です。
多くのがんの論文を見ると利益相反だらけなんです。なにしろ製薬会社の社員が何人も堂々と著者の欄に名前を連ねている。本来、製薬会社の社員が統計解析にかかわってたら、それはおかしいと、その論文は排除されるべきなんだけれど、実際にはそういう論文が欧米の超一流雑誌に載ってしまう。だから次々に出てくる新薬というのは全然信用できないわけです」
製薬メーカーを頂点に、病院、医師、官僚、それにメディアまで絡め取られている構図は、原子力ムラと同じなのである。
ポストでは東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門で、医療ガバナンスを研究している上昌広特任教授が、白い巨塔は「第二の原子力ムラと化した」と告発している。
薬価は政府が一律に決めて、製薬会社は自由な値引き競争ができない。そこで以前は、医者たちを飲ませ食わせする「接待合戦」が行われていたが、最近は製薬協(日本製薬工業協会)が定めたガイドラインができたため、おおっぴらな接待ができなくなった。そこで製薬会社が考えたのが「奨学寄付金」だという。
「奨学給付金とは、製薬会社から大学に研究費を提供できる制度で、バルサルタンの臨床研究も、ノバルティスファーマ社から提供された奨学寄付金が使われました。京都府立医大など5大学に対して支払われたのは計11億3290万円にものぼっています。
奨学寄付金は一見、研究支援のように聞こえますが、実態は製薬会社の営業経費です。大学担当の営業担当者が持っている予算で、自社製品の処方と引き換えに、“研究に使ってください”と医師に持ちかける。読売新聞の拡張員が巨人戦のチケットや洗剤を持っていくのと同じです」
また今回の事件の背景にはこういうことがあるという。
「バルサルタン事件に加担した教授たちは予算がなく、製薬会社の言いなりにならざるを得なくなった。その一方、東大や国立がん研究センターは予算があるから、まともに研究しない医師は余ったカネを不正に使う。予算配分や価格統制権を一部の官僚たちが握ってしまってることの弊害です。(中略)
いまこそ、医療業界の膿をすべて出すべきです。すべての問題を徹底調査し、もう一度医療への信頼を取り戻さなければなりません。
原子力ムラの経年劣化が、福島第一原発事故という悲劇を招いたといわれます。次々と発覚する医療問題は、官僚、大学、製薬会社がつくりだす『白い巨党ムラ』が崩壊を迎えつつある予兆なのかもしれません」
原発の次には医療という巨大なムラを解体し、利権をむさぼる輩たちを一掃しなければいけない。もちろんそこに寄生しているマスゴミも含めてである。
(文=元木昌彦)
●もとき・まさひこ
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
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