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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.236

のび太とドラえもんが60年後に体験する物語!? “泣ける”SF介護コメディ『素敵な相棒』

sutekinaaibo2.jpg娘のマディソン(リヴ・タイラー)はひとり暮らしの父のことが心配。だが、娘には娘の生き方がある。フランクは同居を断る。

 ハイテク機器を嫌っていたフランクだが、ロボットヘルパーはとても控えめでかつ芯が通っている。音声識別でき、会話も可能だが、無駄口はいっさい叩かない。ウマの合わない介護人からグチグチ言われるよりよっぽどいい。何しろロボットなので、気を遣わなくて済む。ロボットヘルパーはフランクの健康状態を毎日チェックし、体調に合った食事を用意してくれる。気ままな散歩にも文句を言わずに付き合ってくれる。ロボットヘルパーと過ごすうちに次第に健康を取り戻したフランクは、若い頃の情熱が蘇り始めた。かつてプロの宝石泥棒として鳴らした腕がうずくのだ。フランクの精神状態が上向きなことを察知したロボットヘルパーは「趣味や生き甲斐を見つけることは素晴らしいことです」と喜ぶ。彼には「顧客の健康改善」が最重要項目としてプログラミングされており、「社会ルールの遵守」はインプットされていなかった。しかも、内蔵されているコンピューターを使って、人間なら1週間はかかる難解なロックシステムもほんの数秒で解錠してしまう。ビバ、ヘルボ! フランクはすっかりヘルボのことを気に入り、家族には言えない秘密を共有する仲となっていく。

 フランクじいさんを演じたのは、『フロスト×ニクソン』(08)でニクソン元大統領に扮した舞台出身の実力派フランク・ランジェラ。『スーパーマン・リターンズ』(06)ではデイリープラネット紙の編集長を演じるなど、オールドタイプの頑固じじい役にぴったり。ロボットの声を演じているのはピーター・サースガード。『愛についてのキンゼイ・レポート』(04)では性科学の研究のためにキンゼイ博士(リーアム・ニーソン)とベッドを共にする献身的な助手、『17歳の肖像』(09)ではキャリー・マリガンの貞操と古美術を盗み出すコソ泥……と幅広い役を演じる技巧派だ。タッグを組んだ2人は、法律や世間体など目もくれず、人生における生き甲斐をとことん追求していく。誰にも理解されることのなかった自分の密かな欲望を、丸ごと受け止めてくれる相棒が現われ、フランクはかつてない喜びを感じる。表情のないヘルボだが、IT成金の屋敷に盗みに入る際の足取りは軽やかで楽しげに映る。不良老人と介護ロボットは、最高のパートナーだった。

 将来的にロボットは人間のような“心”を持つようになるのだろうか。遠隔操作型アンドロイド「ジェミノイド」の開発で知られる工学博士・石黒浩氏の著書『ロボットとは何か?』(講談社現代新書)で語られている視点が面白い。「人に心はなく、人は互いに心があると信じているだけである」と石黒博士は唱えている。心とはとても主観的なものであり、自分自身で自分の心のありようを的確に捉えることは難しい。しかし、他者が怒ったり、悲しんだり、感情を発露させている様子は理解しやすい。自分に心があるかどうかは分からなくとも、他者に心があることは感じられる。他者も同じように感じているのではないか。お互いに心があると信じ合っているのが人間なのだろう、と石黒博士は自説を述べている。また、石黒博士は同著で「ロボットとは人の心を映す鏡である」とも説く。この見解に従えば、ヘルパーロボットは孤独なフランクの胸の内を実に見事に映し出している。フランクはヘルボのことを「自分の内面を誰よりも理解している」存在、心の友として受け入れるようになる。少なくとも世間体や一般常識を優先している息子たちよりも、ヘルボのほうがよっぽど親身で温かみが感じられる。名前すら与えられていないヘルパーロボット、ヘルボには確かに“心”が存在する。

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